2023 Aug. Record & Live

 さすがに夏も終わりつつある感がある。8月はわりと新譜いろいろ聴けたかな、と思っていたが、そう思っている間にも新曲が出ていて追いつくのが大変である。一部は9月のまとめに入れることにします。

 

●新譜(2023〜)

GUTS – Olivia Rodrigo

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Olivia Rodrigo、ファーストアルバムも好きだったけれどそこまではハマらなかった。しかし、このセカンドは結構ハマる予感がしている。

 #1「all-american bitch」のWeezerなどにも通じるインディーポップ・サウンドに早くも引き込まれる。リリックもパンチが効いている(もちろん文字通り読み取っていい類の詞ではないだろう)。#3「vampire」、#4「lacy」とアコースティックな曲が続いたあとに#5「ballad of a homeschooled girl」でまたギターロックに戻ってきたり、#8「get him back!」ではヒップホップ調のトラックが出てきたりと、1枚の中でけっこう幅広いサウンドスケープが聴けるが、これがとっちらからずにうまくまとまり、アルバムにとって良い方向に作用しているのはすごいと思う。

 とにかくポップでメロディアスな部分に惹かれて本作を聴いていたが、海外レビューや英語話者のコメントを見ているとリリックを高く評価する声が多い。この辺りもいずれじっくり読んでから聴き直してみたいと思う。

 

 

Bird Machine – Sparklehorse

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・マーク・リンカスの名前を初めて知ったのは高校生の頃にフォローしていた「小山田壮平bot」のとある投稿の中だった。その後Sparklehorseの1995年のアルバム『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』を聴き、親しみやすいメロディと対照的ともいえる浮遊感ある音像に驚いたのだった。リンカスが既に死去していることもそのときに知った。

 ここへ来てSparklehorseの「新譜」が聴けるとは思っていなかったが、聴いてみると『Vivadixie〜』を初めて聴いたときの驚きを追体験できたようで感慨深かった。

 #1「It Will Never Stop」のバキバキに歪んだギターとヴォーカルに圧倒され、続く#2「Kind Ghosts」で早くも感情を激しく揺さぶられる。使っている単語は難しくないのに、意味を取ろうとすると難しいリリックも特徴的である。#7「Hello Lord」から#8「Daddy’s Gone」の流れもいい。

 楽器とヴォーカルのみのシンプルな音構成の曲もあるが、時折入ってくるノイズともちゃんとしたトラックととれるフワフワした音が印象に残る。ある友人がSparklehorseの曲を聴いて「頭の中で鳴っている音を全部かたちにしたんやろね」と言っていたが、きっと本当にそうなのだろうと思う。

 

 

Haunted Mountain – Buck Meek

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・Big Thiefのギタリストでありコンポーザーの(そしてエイドリアン・レンカーの元パートナーである)バック・ミークのソロアルバム。Big Thiefがカントリーを基調にしながらも、どこかポストロック然としたある種の難解さを湛えているのに比べると、こちらはわりとキャッチーさが引き立つサウンドになっている印象がある。歌詞も情景や心象風景をよりイメージしやすい感がある。

 #4「Cyclades」、歪みを効かせたギターのバッキングが素朴ながらもノスタルジックでハマる。続く#5「Secret Side」のメロウな音像と暗めのリリックも良い。ちょっとTRAVISのようなウェットさも感じる。裏声の使い方はBig Thiefでエイドリアンがやっているそれに近い雰囲気を感じるが、どうか。

 全編を通して、どこか線の細いヴォーカルと奇を衒ったところのないギター、たまに入ってくる若干ピッチの甘いピアノなどが相まってまさしくカントリーな、(もちろん意図的にだろうが)どこか垢抜けない空気感を醸し出している。日常の中でふっと肩の力を抜きたいとき、味方になってくれそうなアルバム。

 

 

just calling to tell you i’m ok – Eliott

・ごく最近になって、教えてもらって聴き始めたメルボルン拠点のシンガーソングライター。とにかく声が好き(ハスキーながら芯がしっかりある系、裏声の使い方もツボ……)。今作がデビューアルバムということのようである。

 生楽器と打ち込みが良いバランスで組み合わさったトラックに、ゴスペルライクなコーラスがワーッと入るのは(#2「Hanging On」など)、もちろんこれまでに多くのシンガーがトライしてきた音作りだと思うが、声質とのマッチングがいいのか、このアルバムではそれがとりわけ印象的に思える。#3「Tell Me」あたりはフェスも意識しているのか、デカいステージで映えそうなタムを目立たせたリズムがよい。

 なんとなく、空間的な広さを感じさせる楽曲が多いように感じるのはオーストラリアという広い国土をもった場所にいる故か。リズムトラックの処理もそれっぽいのだけど、特にヴォーカルパートにおいて休符をつくることを恐れない、余裕のあるメロディーラインが特徴的に思えた。

 

 

The Window – Ratboys

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・シカゴ出身のロックバンド、Ratboysの3rdアルバム。Death Cab For Cutieのクリス・ウォラがプロデュースとミックスを担当したとのこと。デスキャブ、高校生のころ聴いてたな。

 全体を通してギターをジャキジャキ鳴らすロックサウンドが印象的で、個人的にはテンションが上がった。ただ、明るいサウンドと対照的にリリックはけっこうシリアスだったりする(それもまたひとつのインディーロックらしさであるとも思う)。Wikipedia情報になってしまうが、アルバムタイトルのThe Windowとは、ヴォーカルのJuliaとその家族がCOVID-19流行に際して経験したことがベースになっているとのこと。音楽的な面ではトラッドなロックを鳴らしつつも(個人的には聴いていてビートルズや同時代のロックバンドを連想したぐらいだ)、背景にはまごうことなく「現在」が据えられている。

 好きな曲は#2「Morning Zoo」、#7「Empty」あたり。#2はカントリー風のフィドルと、内省的なリリックがツボ。#7も2コードで進むシンプルな曲構成と、どこか後ろ暗い雰囲気の詞世界との絶妙な絡み合いが好きである。

 

 

Stage of Love – Mary Jane Dunphe

・読みはメアリ・ジェーン・ダンフィとかでいいのかな。カントリーロックバンドThe Country Linersをはじめ、複数のバンドやコレクティヴで活動している人のようなのだが、今まで聴いたことがなかった。

 結構不思議なアルバムだった。1曲1曲のキャラがかなり立っていて、38分という録音時間以上の情報量を感じる作品。表題曲(#1「Stage of Love」)はSiouxsie and the Bansheesのようなポストパンクっぽい雰囲気で、それに控えめな打ち込みが乗る。特にコーラスがかかったロー弱めのベースは嗜好度が高いようだ。ヴォーカルの歌い方がかなり面白く、フェミニンなハイトーンから喉を開いた「オァー」みたいな(伝わらん)迫力ある声まで出せるのだが、ときにこれらを1曲の中で展開する。何人かが変わりばんこに歌っているようにも聞こえる。

 全体的に凝ったつくりの曲が多いなか、#4「Moon Halo」や#8「(I Know) A Girl Called Johnny」のようにスタンダードなコード進行やメロディを聴かせる曲もよい。

 

 

1STSET – TESTSET

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・7月には既にリリースされていた本作を今更聴き、フジロックでアクトを観られなかったことを非常に残念に思っているところ。メチャクチャかっこいいです。

 今年1月に急逝した高橋幸宏氏のプロジェクトであったMETAFIVEを母体とするユニットで、幸宏氏のレガシーとも言うこともできるのだろう。しかし、その経緯を知らずにひとつの新バンドとしてTESTSETを聴いたとしても、自分はきっとこれに惹かれていただろうと思える。

 テクノ〜クラブミュージックの質感をキープしながら、ギターやアクティヴなヴォーカルで人間味(と言っていいのだろうか)をしっかりと出していく感じ、改めて好きだなあと実感する。DJでかかっていても、ステージで演奏されていても双方違和感がない。

 #2「Moneyman」をはじめ、超キャッチーで踊れる曲が揃っている一方、#9「Stranger」のように浮遊感のあるメロと重目のリズムで言葉を聴かせる曲もあり。次回どこかでライヴを観られる機会があれば逃さないようにしたいところ。

 

 

●新譜以外(〜2022)

わたしの好きなわらべうた寺尾紗穂

・ポップスと民謡の関係性、みたいな話を人としていてふと思い出したアルバム。全国各地の童歌(わらべうた)を、寺尾さんがさまざまなジャンルにアレンジしている。

 日本の音階でできている童歌に西洋音楽の和声やリズムを乗せる、というトライアルが驚くべき完成度で果たされている。と同時に、そうした「異国」のアレンジに十分耐えうるどころか、それらと組み合わさることで新たな存在感を示す日本の童歌の“強度”も凄まじい。各曲の末尾には具体的な地名が記されており、これらの歌は実際にご本人が取材して採譜したものらしい(流石……)。

 ファーストトラックである#1「新潟 風の歌「風の三郎〜風の神様」」、ジャズアレンジの#7「茨城 七草の歌「七草なつな」」が好き。茨城は一応地元だが初めて聴いた。水戸とはちょっと別のエリアの歌のようなのでさもありなん。

 

 

Legend - Bob Merley & The Wailers

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・日ごろ日本やアジアのポップスを聴いてレゲエがどうだのダブがどうだの、と言っているわりには本場ジャマイカのレゲエをきちんと聴いたことがなく、それはいかがなもんかということでボブ・マーリーを聴きなおしている。まずベスト盤から……。

 #1「Is This Love」のド頭からあの「カラララン」というサスティンの長いスネアのフレーズが入り、これこれェ、という気分になる。しかし、聴いていくほどに彼の音楽は非常に繊細で、緻密に作られたものであることが再認識できる。実際、先述の特徴的なドラムサウンドやブリっとしたベースなどをうまいことミックスするのは難しそうだ。

 なんとなく楽曲の形式的な部分だけが浚われて言及されることの多いジャンルであるように思うので、ときどきこうして原点となるアーティストを聴くのは大事だな、と改めて思うなど。

 

 

盗作 – ヨルシカ

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・ヨルシカはいわゆる「夜行性」アーティストのはしりとしてずっと真夜中でいいのに。、YOASOBIと並べて語れることが多かった(音楽性はそれぞれまったく異なっていると個人的には思うが)が、じつは腰を据えて聴いてこなかったところがある。

 最近新譜が出たが、敢えて2020年リリースの本作を聴いてみた。『盗作』という奇妙なタイトルが話題を呼び、Twitterのトレンドに乗っていた記憶がある。#4「爆弾魔」と#6「レプリカント」は聴いたことがあった、よかったよかった。

 suisのクリアなヴォーカルは言わずもがな素晴らしいが、どの曲もギターを前のほうに出しており、手数の多いギターソロもちょいちょいある。ギターからポップ・ミュージックに入った身としては楽しい。途中途中に入ってくるインストナンバーは、初めて聴くのになぜか懐かしい感じもする(恐らくヨルシカのメンバーは私と世代が近いが、それが影響していそう)。

『盗作』というタイトルについては色々考えられそうだが、ま、ここでは置いておく。

 

 

●Live

8/27 “avissiniyon“ @下北沢440

・uamiさんと君島大空さんのユニット、avissiniyonの東京公演。お二人の拠点が離れているということもあって1年に2回ぐらいしかライヴをやらないらしいので、今回は非常に貴重な機会。

 Avissiniyonとしての作品はそう多くないようで、お互いのソロ作品や他アーティストのカヴァーの比重が多く、新鮮な楽しみのあるライヴだった。セッションのようなスタートからだんだん楽曲の輪郭がはっきりしていき、「あ、あの曲だ!」となる瞬間にのみ得られる心の滋養がある。

 uami「弾けて」、君島大空「扉の夏」のavissiniyonバージョン、細井徳太郎「エンガワ」、東京事変「御祭騒ぎ」、そしてアンコールのキリンジ「エイリアンズ」。他にも書き出したらキリがないが、恐らく音源化はされないであろうカヴァーの数々、できるだけ記憶に残しておきたい。いい夏の終わりだった。