2024年3月 Record & Live

 3月はわりとやることが多かったがその割にいろいろ聴けたと思う(1度や2度ほど長めの電車移動をしたのでそのときにかなり聴いた)。以前から楽しみにしていた作品も多く嬉しい月だった。

 

●Records

Daniel – Real Estate

・Real Estateの6枚目のフルアルバム。衒いのないギターロック・サウンドとキャッチーなメロディで、日常のどんな場面にもナチュラルに馴染んでいくようなサウンドスケープが素晴らしい。

 もちろん、#4「Flowers」のコーラス部分のヴォーカルに寄り添うようなリードギターのフレーズや、#6「Freeze Brain」のリズミカルなベースパターンなど、よく聴くと随所に凝りポイントはある。しかしながら、それらも不自然に目立つことなく、あくまで「その楽曲の中で必要なもの」としてスムーズに組み込まれているようだった。メンバー各々のテクニックがしっかり備わっているからこそできる技だと思う。

 #10「Market Street」で、ベースとリズムギターの間を縫うようにして入ってくるリード(?)の動き方も好き。

 

Underdressed at the Symphony – Faye Webster

・Lil Yachtyとの楽曲#4「Lego Ring」ほか、いくつかの先行曲を聴いて楽しみにしていたアルバム。

 スロー〜ミッドテンポで、コードも2つしか使っていない#1「Thinking About You」をはじめ、ゆったり目でドリーミーな楽曲で構成されている印象である。本作についてネットでつらつらと調べていたら、「日曜の朝に聴きたい」という感想が散見され、興味深かった。たしかに天気のいい休みの日にぴったりかもしれない(とはいえ、個人的にはこれもまたどんな場面にもしっくりきそうな音楽だと思っている)。

 ギターをやや控えめに聴かせながら、ハスキーなヴォーカルとピアノ系のウワモノを前に出したミックスの感じも違和感ない。タイトルが面白く、どこかジャズ風な#10「Ttttime」、かなり好きだった。

 

Your Favorite Things – 柴田聡子

・タイトルの印象もあって映画の劇伴をイメージさせる#1「Movie Light」から、もう素晴らしい。ピアノ+ストリングスのオケにシンプルなドラム、という構成に、ふと後期ビートルズを思い出すなど。

 全体的なリズムの作り方やシンセのサウンドなどからはR&Bの影響を強く感じつつ(Ex. #5「白い椅子」)、ヴォーカルやリリックについては日本語の面白さ・トリッキーさで上手く遊び、無二の世界をつくりあげることに成功しているように見え/聞こえる。

 演奏・ミックスともかなり高度なテクニックを要する(と思う)楽曲たちだが、よい意味でその難しさはあまり感じさせず、あくまで親しみやすいバンドサウンドに帰着しているのも印象的。5月末のLiveに行く予定だが、特に#7「Side Step」は生演奏超聴きたい。そして踊りたい。

 

elvis, he was Schlager – Church Chords

・Church Chordsというプロジェクトを知ったのがそもそも最近。中心人物であるStephen Buonoのインスタを見てみれば哲学者シモーヌ・ヴェイユの肖像が鎮座しており、どうもただの人ではないらしいことが聴く前からなんとなく伺えた。

 共演者の幅の広さにまず驚く。KnowerのGenevieve Artadi、日本からは嶺川貴子、ベースにブラジルの音楽家Ricardo Dias Gomes……などなど。

 #3「Apophatic Melismatic」ではエレクトロニックを基底に置きつつ生感のあるギターを持ってきたり、#6「Warriors Of Playtime」では生楽器感の強いジャズサウンドからはじまってアンビエントな音像に遷移し……というように、一つひとつの楽曲が多彩な個性に溢れていながら、アルバム全体としてちぐはぐな感じがなく、むしろ統一感のようなものに守られている感すらある。音の雑木林のようなアルバム。

 

Shun Ka Shu Tou – LAIKA DAY DREAM

・情報解禁から心待ちにしていたLAIKA DAY DREAMの3rdアルバム。ライヴで観た曲を改めて音源で聴いて「これか!」となる楽しみと、初めて聴く曲に圧倒される楽しみと。

 リリースに際してインタビューが公開されており(https://antenna-mag.com/post-71288/)、一緒に読んで聴くのがオススメ。インタビュアーが「音楽観や創作の狙いについて雄弁に語る、自身の言葉を持った音楽家だ」と表現する理由はよく理解できる。

 #3「カートより長生き」というタイトルの楽曲があるように、Nirvana、ひいてはグランジの存在が背景にあるアルバムだそうで、ザクッとした歪みが随所で聴ける。そういえば自分も来月に28歳になるので、「カートより長生き」になってしまう。ヤバイ。

 どの楽曲も好きだが、どこかThe Strokes感のある#5「サイケな女」に個人的には大ハマりしている。

 

Still – Erika de Casier

ポルトガルに生まれ、デンマークで育ったSSW、Erika de Casier。日本の検索エンジンでこの名前を入れるとNewJeansの名前が同時に出てくる。そう、NewJeansのEP「Get Up」で4曲の作曲に携わっていたのであった。不覚にもスルーしていた。

 というわけでソロ作品をしっかりと聴いたのは本作が初めてだが、結論とても好きだった。音楽的にはR&B成分が強く、そのなかでときにアコースティックな楽器が使われたり、ときにしっかりエレクトロニックに振ってあったりと、様々な表情が見える。踊れるミュージックであるというのは全編共通している。リリックのテーマは、「愛」や「繋がり」といったものに対する懐疑含みの信頼、とでも言えばいいだろうか。

 特に好きだったのは#3「Lucky」と、#8「Believe It」〜#9「Anxious」〜#10「Ex-Girlfriend」の流れ。メロディがよい。「Ex-Girlfriend」にはShygirlが参加している。

 

Bleachers – Bleachers

・活動休止中のバンド・FUN.のギター&ドラムとして活動していたJack Antonoffのソロ・プロジェクト。Dirty Hitと契約してから最初のアルバムということになる。

 と掴みはとにかくポップで明るいサウンド! しばらくの間、テンションを上げたい朝なんかはこのアルバムを聴くことになりそう。#2「Modern Girl」のOh-Ohコーラスはライヴでは大盛り上がりだろう。これを観るためにサマソニ行きたいぐらいだ(今年来るそうです。東京土曜)。

 アルバム全体としてはハイテンション一辺倒ではなく、中盤にかけてメロウな楽曲もしっかりあり、Lana Del RayとClairoが参加する#5「Alma Mater」のチル感がよい。50分間のストーリーというものがしっかりある印象。

 全体的に、ホーンセクションがリード担当にとどまらず、リズムやコードの構築にも役を得ているのが興味深かった。

 

Mountainhead– Everything Everything

有機的なバンドサウンドとエレクトロニックの融合、という印象は健在。しかしながら、一部作詞にAIを導入するなどの試みを行った前作とはまた違い、今作はかなり人力というところにこだわっているような印象を受けた。

 楽曲的にはメロディアスでキャッチー。#3「Cold Reactor」のハイトーンなど非常にポップだ。リリックや楽曲タイトルを読み解いてみるとかなり明確に政治的なテーマを扱っていることがわかる。根底にあるのは資本主義という巨大なゲームに対する皮肉を込めた批評だろう。踊りながら社会に一矢報いようとするムーヴ。ちなみにレディオヘッドの影響は本人たちも挙げているよう。

 「Cold Reactor」〜#4「Buddy, Come Over」の流れはついリピートしてしまう。#8「Canary」のようなエレクトロ色が強い楽曲も捨てがたい。

 

The Collective – Kim Gordon

Sonic Youthの元ベーシスト・Kim Gordonのソロ最新作となる。あまりきちんと彼女のキャリアを追ってきたわけではないので詳しいことは言えないのだが、とりあえず「今はこういう音楽やってるんだあ…」という印象を素直に受けた。

 Drift Phonkを想起させるズッシリとしたリズムに呟くようなヴォーカルが乗る楽曲が多く、Sonic Youthのようなノイジーなギターサウンドのイメージからはだいぶ乖離している。あくまでKim Gordonのソロ作として成立している世界である。

 テーマとしては、社会に内在された不均衡や格差をダイレクトに取り上げ、明確なメッセージをもったものが印象に残る。#4「I’m A Man」の歌い出し「It’s not my fault I was born in a man」から、能天気なだけのダンスミュージックを想像するわけにはいかない。

 個人的にはやや難解な部分もあり、できれば時間をおいてまた聴きたいアルバム。

 

CD Wallet – HOMESHAKE

Mac Demarcoのバンドでギターを弾いていた時期もあるカナダのコンポーザー、Peter Sagerのソロ名義。

 一聴して内省的で、しっとりとした湿度のあるインディー・ギターロックという印象を受けた。あまり高い音は使われず、低めに鳴らされるギターと落ち着いたヴォーカル。実際、本作のコンセプトとして「幼少期の自分に聴かせる」ということがあるらしく、レコーディングも大半が自宅スタジオで行われたらしい。非常にドメスティックなアルバムということだ。

 Macのバンドはライヴ映えするサウンドでありながらもドリームポップ、サイケの要素を含んでいて、それが独自の面白さになっていたイメージだが、本作はそこを経由してさらにドリーム感、宅録感を深めた感じがした。表題曲#6「CD Wallet」と、最後の#8「Mirror」、#9「Listerine」が好き。

 

Y’Y– Amaro Freitas

・こちらも初聴き、ブラジルのジャズピアニスト。たしか昨年のFESTIVAL FRUEZINHOで来日していたと思う。

 こんな音楽があるのか……と素直に驚いた。アンビエント調の#1「Mapinguari」ではプリペアドピアノの金属音の周囲で打楽器や鳥の声のような音が鳴る。なにか深い森の中にいるような錯覚すら起こる(本作はブラジルの先住民族の「音」にピアノを用いて近づこうとする試みが行われているようだ)。#2「Uiara」では少し雰囲気が変わり、Amaroの卓越したピアノのテクニックが光る曲。ミュートされた中音域の弦が鳴らすコードがギターのようにも聞こえ、面白い。そして#3「Viva Nana」では再び環境音楽風に戻り……。そんな感じでカラフルかつ不思議な音世界が続いていく。

 Amaroの音楽的探究心もさることながら、ピアノという楽器の奥深さ・幅広さにも驚く。

 

Default – Kim Sawol

・「なぜ今まで出会っていなかったんだ……?」と思ってしまうぐらい好きな音楽だった。アップルミュージックではFolkに分類されているものの、エレキが主体の曲も多く、弾き語りベースのポップスという感じ。

 シンプルな構成とどこか湿っぽい叙情の出し方はブリットポップに通じるものがあると思ったし、メロディとリズムの絡ませかたなどにはThe Beatles(特にジョン・レノン曲)の雰囲気を感じた(多くの曲で、左右のチャンネルにパキッと音を分けたミックスにしているのもThe Beatlesっぽい。なぜ敢えてこういうミックスにしたのだろう?)。4年前のインタビューではJane BirkinSerge Gainsbourgの名を挙げつつ、日本のアーティストでは椎名林檎をフェイバリットに挙げるなど、そもそも幅広い音楽を聴くリスナー型のミュージシャンであることが窺える。

 #「Don’t Cry A River」の踊れるリズム、#4「Poison」のジャズ味あるギターソロが好き。

 

 

●Live

3/6 Wilco JAPAN TOUR 2024 @EX THEATER ROPPONGI

 Wilcoはずっと生で聴きたかったバンドのひとつ。単独では11年ぶりということで、流石に逃す手はなかった。序盤に『Cousin』や『Cruel Country』など新しめのアルバムからの曲を持ってきつつ、早めの段階から『Yankee Hotel Foxtrot』あたりの過去の名盤からの曲を演奏してくれたのは嬉しかった。「Jesus, Etc」〜「Heavy Metal Drummer」の流れよかったな。

 長尺のギターソロなどライヴならではの見せ場も多く、音源と生演奏どちらも素晴らしいと実感。オーソドックスなバンド編成で、あくまで歌モノを基調としながらも文字どおりロック音楽の「オルタナティヴ」を独自に更新し続ける稀有なバンドだと改めて思う。

 

3/11 slowdive JAPAN TOUR 2024 @豊洲 PIT

 slowdiveは昨年のフジロックに出演していたのだが、3曲だけ観てヘッドライナーのステージに移動してしまった。自分の勝手ではあるが今回はリベンジマッチでもあった。

 うっかりスピーカーの前に陣取ってしまい、轟音を全身で浴びることに。しかしこれはこれで普段の生活では経験しえない貴重な体験になったと思う。

 生バンドのサウンドとメカメカしいサウンドの融合や、轟音(2回目)でありながら神経質なまでに緻密に聴こえる音像の構築、という点において「普段どんな生活してたらそんな音が出せるんや」という感想が出た。ベースとドラムのサウンドが特に心地よかった。

 

3/16 “Heterotopia” @下北沢spread

 Liveはrilium、Seukol、Albem。DJはtomo takashima。何かと世話になっているSeukolとAlbemがイベントをやるというので、これも見逃せぬ、とチケットを申し込み。

 全編を通して非常によかったのだが、初めてライヴを観たAlbemにはドギモを抜かれた。言い方は雑になってしまうが、こんなに良いと思っていなかった。きわめて繊細に組み上げられた音楽でありながら、キャッチーで踊れる。なぜこれが深夜のマーキーで観られないのか。「Love」は音源も超カッコいいので必聴。

 クラシックとポストロック、ジャズなど、全く異なるジャンルの音楽を巧みにつなぐtomo takashima氏のDJも楽しかった。「普段は別のフィールドで活躍している人どうしをつなぐ場にしたい」というイベントの趣旨に応じた選曲、という話だった。