2023年4月 Record & Live

 今年の4月もあっという間だった。まとまった時間がなかなか取れなかったが、そうこう言いつつ仕事の行き帰りに聴いたりなどなど。

 新譜と連動したLiveも観れたりして、楽しい月だった。

 

●Records

TYLA – Tyla

南アフリカヨハネスブルク出身のSSW。セルフタイトルである本作がデビューアルバム。

 R&Bを基調としつつ、どこか淡々としたリズムとハスキーな歌い方が特徴的なように思う。リードシングルでもある#2「Water」をはじめ、電子チックなビートの中にアフリカの民族音楽を想起させるパーカッションが入っている。普遍的なポップスのツボとドメスティックな要素が絶妙なバランスで組み上がっており、これはかなりハマる。

 一方で、#7「Butterflies」のようなアコースティック風味の楽曲にも無二の魅力があり、そういったところに音楽性の幅の広さも感じる。

 そんな感じで楽曲の情報量は結構多く、1曲1曲の雰囲気も結構違うのだが、ダンサブルでノれるというところは一貫していて、アルバムとしてとっちらかっていない。非常に繊細に構成された作品だと思う。

 

Tigers Blood – Waxahatchee

・ラフにキメているようでいて、実際に演奏しようとすると結構難しいタイプの音楽だと思う。インディーフォークって総じてそうかもしれない。

 WaxahatcheeもといKatie Crutchfieldの6枚目のアルバム。アコギが引っ張る心地よいフォークサウンドと伸びやかなヴォーカルは健在にして、親しみやすい雰囲気がやや増ししたと思うのは自分だけだろうか。明るい空気感の#3「Ice Cold」からゆったりとした#4「Right Back to It(feat. MJ Lenderman)」につながる流れが好き。後者のコーラスのメロディとハモリが癖になる。

 歌詞はけっこう湿っぽいというか、一筋縄ではいかない人間関係のようなものをシンプルな語彙で表現しているようにみえる(ゆえに英語の詩に慣れていないとわりと難解)。

 ドラムで、WilcoのJeff Tweedyの息子Spencerが参加している。そうか、ドラマーだったのか。

 

Interplay – Ride

・UKのオルタナティヴロックバンド、Rideの7枚目のアルバム。とはいえ、活動にブランクのあるバンドなので再結成後4枚目のアルバムと言ったほうが適切かもしれない。

 Rideというと轟音のシューゲサウンドとメロディアスなウワモノの協奏、という印象が強くあったが、本作ではそういう曲も聴けるし、かつ「歪みデカ音」「美メロ」「エレクトロニカ」「サイケ」らへんの広範な要素がそれぞれ独立して存在していたりもする。まさに表題の『Interplay(相互作用)』といった感じがする。

 ダンスポップ然としたリズムセクションに古き良きUKガレージ風のコードとヴォーカルが乗る#4「Monaco」、アコギがイニシアティヴをとってフォーキーな雰囲気を奏で出す#7「Last Night I Went Somewhere to Dream」が好きだった。Apple Music等で見られる動くジャケットアートも幻想的。

 

A LA SALA – Khruangbin

・テキサスのサイケロック・ユニットであるKhruangbin、アルバムとしては約4年ぶりのリリースになるらしい。2022年に来日もしていたが、当時はノーマークだった。

 もともとサポートメンバー等を積極的に呼んで活動しているらしいのだが、今回のRecではオリジナルメンバーのみで行ったそう。聴いてみるとたしかに、基本的にはシンプルなバンドサウンドで構成されていることがわかる。

 インストかと思って聴いているとふとした拍子にヴォーカルが入ってきたりとか、ドラムがミニマルなリズムを叩いている横でベースが裏拍をズッズッ、と取っていたり、そういう思いがけないトリッキーさがある。と同時に#2「May Ninth」のような温かなギターサウンドと優しいメロディも要所に感じられ、聴いていて疲れない。

 #7「Juegos y Nubes」とか#12「Les Petits Gris」など、ちょいちょい曲名が多国籍なのも面白い。

 

Up On Gravity Hill – METZ

・カナダのガレージ・パンクバンド(fromウィキペディア)で、本作が初聴き。#1「No Reservation / Love Comes Crashing」の重く歪んだギターによる不協和音に手数の多いドラム、叫ぶようなヴォーカルはパンク以降、文字どおりポストパンク〜ハードコアの雰囲気を漂わせているように感じた。ローファイでDIY感のあるサウンドスケープも印象的である。一発録りだろうか。

 トリッキーな#7「Never Still Again」などは、black midiなどがトライしているポストロックの方向性に近いような印象も受ける。基本的に歪みギター+ベースが前面に出ていることは共通しているのだが、コードの使い方などはいわゆるガレージorパンクからは一歩離れた所にいるよう。

 #8「Light Your Way Home」のような轟音のカタルシスで魅せる曲もいい。イントロはアコギを歪ませているのだろう。あくまで歪みは必須らしい。

 

All Quiet On The Eastern Esplanade – The Libertines

サマソニでの一件があってから日本での(現状)最後の思い出がビミョーなものとなっているザ・リバティーンズ。新譜、ふつうによかったのでいつか生演奏を観たいと改めて思うなどした。

 こちらはあくまでトラッドなロック〜ガレージサウンドを保ちつつ、要所に鍵盤を入れるなどしてポップネスを上げている感じがする。メロディも親しみやすく、ライヴでの合唱が想像できるような曲も多い。

 #2「Mustangs」〜#3「I Have A Friend」の流れのようにテクよりは熱量でガガガっと押していくような感じも、キレイにまとまっているよりも(音楽的にも)却って魅力的に感じる。ギターソロ音詰まっとるやん。

 #7「Night Of The Hunter」のイントロはチャイコフスキーの「白鳥の湖」の引用。こういう大胆な引用もそれこそThe Beatlesなどがよくやっているイメージだが、最近あまり耳にしなかったせいか懐かしさのようなものも感じた。

 

Gold – Tusks

・エレクトロニック歌モノのシンガー。こちらも本作ではじめてじっくり聴くアーティストである。

 タイトなリズムトラックに、浮遊感と重厚感の絶妙なバランスを孕んだヴォーカルが乗る曲たち。シンプルに心地がよく、自然と体が揺れる。Bandcampの紹介文を読んでみると、イングランドの古い都市であるDevonへの旅を経て、半数ほどの曲は書かれたという。旅が音楽のインスピレーションになるという体験は結構普遍的なエピソードとして聴く気がする。

 #2「Adore」、#3「Artificial Flame」など、美しいハーモニーのなかでそっとハシゴをずらすように奇妙なコードを混ぜたりするアレンジが面白い。#8「Gold」も、イントロ数秒だけ聴くとローファイ・ヒップホップが始まるのかと思うが、すぐに歪んだシンセがトリッキーなコードを奏で出す。基本はキャッチーでありながらそこかしこに予想外なフックを仕掛けてあるのが楽しい。

 

Eyes – Vanessa Bedoret

・不思議なアルバムに出会ってしまった、と思った。Vanessa Bedoretなる音楽家は、パンクギターから入ってダンスミュージックを経由し、クラシックをも包含するバックグラウンドを持つ人物らしい。

 全体的にミニマルな環境音楽のような雰囲気を纏った楽曲が多く、いわゆる踊れる感じではないと思う。#4「Transition」のように電子ビートがフィーチャーされた曲もあるが、あくまで音像の一要素としての性格ではなく、楽曲全体をグングン前に進めるためのそれではないようた。本曲でビートの上に乗っているのも怪獣の叫び声のようなストリングスだ。

 しかし、踊れはせずとも、身体の中でなにかこの楽曲たちに反応する部分がある。それがなんなのか言語化することは難しいが。

 #2「Ballad」、#5「Eyes」はなんとなくリピートして聴いてしまった。

 

Only God Was Above Us – Vampire Weekend

・狂気すら感じるハイテンションなバッキングにEzraのさわやかヴォーカル、というVWの基本イメージはそのままに、サウンドがどんどん研ぎ澄まされていっている。楽曲のよさもさることながら、鳴っている一つひとつの音が面白い、類まれな作品集だと思う。メロウな曲ももちろん良いのだが、個人的には#2「Classical」や#7「Gen X-Cops」のような陽気さを感じる曲がやはり好き。

 しかし、リリックをよく読んでみるとそれこそ「Gen X-Cops」などシビアで仄暗いテーマが歌われていたりする。アルバム名も、飛行中に屋根が剥がれるという事故を起こした航空機の乗客のセリフから取られているのだそう。歴史や社会的な出来事との接点をキープしつつ、作り出す音楽に必然性や説得力を持たせるスタイルも言われてみれば一貫しているような気がする。好きなバンドです。

 

Bright Future – Adrianne Lenker

・少し前に、同じくAdrianneのソロ作品である『abysskiss』を聴いた際には、素朴なフォーク精神を前面に出していると直感的に思った(特にBig Thiefの作品と比べたときに)。本作でも近いことを感じたのだが、こちらはより親しみやすさのような成分が強いように思う。言ってみればはじめて聴くはずなのになぜか懐かしく思うような。そう、サウダージ(違うか)。

 #2「Sadness As a Gift」。弾き語りにスムーズに乗ってくるストリングスが気持ちよい。リリックは、時間の流れとともに必然的に訪れる別れが題材か。切ない内容ではあるが歌いぶりはあくまで朗らか。#4「No Machine」では“Let no machine eat away our dream”と歌い、それを裏づけるようにギター1本と歌声のみで曲は進んでいく(コーラスのハイトーンが好き)。一方、#「Cell Phone Says」では文明の利器によってつながりを保つ人々の姿を描く(ちなみにこれも弾き語り曲)。

 

●Live

4/5 Rock and Roll Circus @荻窪Top Beat Club

 サークルの後輩がやっているガレージロックバンド・Dr.Venusを観に行った。チバユウスケ直系のがなりヴォーカルとリッケン2発(ギター&ベース)の爆音バンドで、かなりいい。令和も6年目に突入したこのタイミングでここまで上質なガレージが聴けるのはありがたいことである。

 もともと神戸で生まれたイベントらしく、この日も関西からのバンドが来ていた。記憶が正しければオータムズというバンドだったと思う。ドラムヴォーカルのパワフルなバンドだった。

 

4/24 Umi Ogimi Trio @三鷹Natural

 生活の設計で一緒にサポートさせてもらっている眞崎康尚くん(Pf.)のジャズトリオ、以前から気になっており先日ついに。Dr.は大儀見海さん、Ba.は小西侑果さん。

 スタンダードナンバーとメンバーのオリジナル曲を半々ぐらいで演奏されており、スタンダードの「あ、これ知ってるぜ〜」という嬉しさとオリジナル曲の新鮮さ、緊張感どちらも味わえた。

 ジャズはリスナーとしてもまったくの初心者で、リズムの感じ方もソロの取り方もポップス、ロックとはまた異なるセンスが必要なのだと思う。一方で、目の前で鳴っている音にギュッと心を持っていかれる感じは共通しているような気もする。もっと色んなジャズのLive観たいですね。

 

4/26 LA SEÑAS 狂宴 Vol.4@Club Asia

 生活の設計で一緒にサポートさせてもらっている(そう、はからずも同じ週に続いたのである)關街くん(Perc.)が参加している「即興演奏打楽器集団」・LA SEÑASのLiveでした。年始ごろにアルバムを聴いてからずーっと気になっており、ぜひ生で見たいと思い続けていた集団だった。

 言葉でどうこういうアレではないような気もするけれど、とにかく楽しく、アガる時間だった。ステージの右から左までを、見たことあったりなかったりする打楽器たちが占拠しているさまも圧巻(街くんのンゴニも聴けて良かった)。

 コンダクターがハンドサインで指示を出す演奏法はアルゼンチン発祥らしく、この方式を導入したのはLA SEÑASが日本初らしい(調べた)。

 

4/29 Kim Sawol Show in Tokyo@Spotify O-nest

 こちらもまたアルバムを聴いてから気になり続けていた韓国のSSW・Kim Sawol。すごくいいタイミングでチケットが取れた。

 本人のソングライティング、歌唱もよいし、バンドセットの一体感がまた非常に良い。音源を聴くだけでなく、改めてLiveを観ることの楽しさをまっすぐ伝えてくれるようなアクトで感動。自身もSSWとして活動しているLee Seolahさん(Key.)のコーラスが耳に残っている。「Don’t Cry A River」は早くもLiveのクライマックスナンバーになってるっぽく、めっちゃ盛り上がってた。

 mei eharaさんは、Liveを観るのは何度目になるだろう。何度観てもよいのだから、これはもう仕方ない。安定感。

 終演後に小額ながらパレスチナ支援の寄付をさせていただき、新しく制作されたStand with Palestineのバッジをいただいて帰った。

 

#CeaseFireNow

#FreePalestine