2023 . Record & Live (総集編・7月〜12月)

 前回記事の後半。明らかに下半期は聴く&行くの頻度が下がったな…。まあこういうことは体力や他のやることなどとの兼ね合いもある。という言い訳を置いておきます。

 

●新譜 (2023〜)

1.When Horses Would Run – Being Dead

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・テキサスを拠点とする3人編成のポップ・ユニット。これがファースト・アルバムということになるみたい。

 #1「The Great American Picnic」では変拍子を駆使したリズムにバロック時代の宗教曲のような旋法が乗っかり、かなりミクスチャーな音楽性が早くも窺える。#2「Last Living Buffalo」では王道インディーポップ感のあるイントロとキャッチーなメロディラインで曲を進めつつ、2分ぐらい経ったところで突然の爆音ギター×絶叫パートが一瞬入り、ポスコア辺りも経由していることが察せられる。一方、#7「Treeland」などは全編をとおして聴きやすいポップロック

 ファーストかつインディーということもあり、アルバム全体の統一感というよりは自分たちのやりたいことをやれるだけ突っ込んでみた、という感じかもしれない。でも、その「節操なさ」がまったく不自然でなく、このバンドらしさにも繋がっているのがおもしろい。

 

2.Girl with Fish – feeble little horse

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アメリカの新しいバンドで、このアルバムで初めて知った。ちなみに本作はセカンドアルバム。なおペンシルベニア出身なので、テキサス拠点のBeing Deadとは見てきた風景も結構違うだろう。

 このバンドも癖が強く、1曲目(「Freak」)からブリッブリに歪んだ(というかもはや音が割れている)ギターが鳴り響き、そこにウィスパーな女声ヴォーカルが絡んでいくという流れ。ライヴとかでどうやってPA のバランス取ってるんだろう?

 フォークやガレージあたりの音楽をルーツにしているようで、ギターの使い方などはその辺りをリファレンスにしていそうだが、ヴォーカルの処理などは昨今のベッドルーム・ポップに近いような雰囲気もあって、現在のアメリカでのインディーオルタナの曲作りのメソッド(の一幕)が見えるようで興味深い。

 また本作はどの曲もタイトルがシンプル(大半が一単語で、英検3級が取れていればわかる単語だ)で、一曲一曲が短いのも特徴的だった。11曲で26分。この辺りはサブスク時代にフルアルバムを作るにあたっての戦略的なこともあるのだろうか。それとも単に短い曲を作るのが合っているのだろうか。

 

3.Sun Arcs – Blue Lake

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・山の中で目を閉じて聴きたい系の音楽。デンマークマルチプレイヤーによるプロジェクトだそう。

 ギターやストリングスを使ったシンプルに綺麗なナンバーもさることながら、民族楽器(ハープみたいな弦楽器だろうけど、楽器名がよくわからない)で音階をポロンポロン鳴らしている#2「Green-Yellow Field」、#7「Sun Arcs」あたりのザ・アンビエントな曲が印象的だった。

 このアルバムもタイトルがシンプルな曲が多い。

 

4.GUTS – Olivia Rodrigo

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Olivia Rodrigo、ファーストアルバムも好きだったけれどそこまではハマらなかった。しかし、このセカンドは結構ハマる予感がしている。

 #1「all-american bitch」のWeezerなどにも通じるインディーポップ・サウンドに早くも引き込まれる。リリックもパンチが効いている(もちろん文字通り読み取っていい類の詞ではないだろう)。#3「vampire」、#4「lacy」とアコースティックな曲が続いたあとに#5「ballad of a homeschooled girl」でまたギターロックに戻ってきたり、#8「get him back!」ではヒップホップ調のトラックが出てきたりと、1枚の中でけっこう幅広いサウンドスケープが聴けるが、これがとっちらからずにうまくまとまり、アルバムにとって良い方向に作用しているのはすごいと思う。

 とにかくポップでメロディアスな部分に惹かれて本作を聴いていたが、海外レビューや英語話者のコメントを見ているとリリックを高く評価する声が多い。この辺りもいずれじっくり読んでから聴き直してみたいと思う。

 

5.Haunted Mountain – Buck Meek

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・Big Thiefのギタリストでありコンポーザーの(そしてエイドリアン・レンカーの元パートナーである)バック・ミークのソロアルバム。Big Thiefがカントリーを基調にしながらも、どこかポストロック然としたある種の難解さを湛えているのに比べると、こちらはわりとキャッチーさが引き立つサウンドになっている印象がある。歌詞も情景や心象風景をよりイメージしやすい感がある。

 #4「Cyclades」、歪みを効かせたギターのバッキングが素朴ながらもノスタルジックでハマる。続く#5「Secret Side」のメロウな音像と暗めのリリックも良い。ちょっとTRAVISのようなウェットさも感じる。裏声の使い方はBig Thiefでエイドリアンがやっているそれに近い雰囲気を感じるが、どうか。

 全編を通して、どこか線の細いヴォーカルと奇を衒ったところのないギター、たまに入ってくる若干ピッチの甘いピアノなどが相まってまさしくカントリーな、(もちろん意図的にだろうが)どこか垢抜けない空気感を醸し出している。日常の中でふっと肩の力を抜きたいとき、味方になってくれそうなアルバム。

 

6.The Window – Ratboys

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・シカゴ出身のロックバンド、Ratboysの3rdアルバム。Death Cab For Cutieのクリス・ウォラがプロデュースとミックスを担当したとのこと。デスキャブ、高校生のころ聴いてたな。

 全体を通してギターをジャキジャキ鳴らすロックサウンドが印象的で、個人的にはテンションが上がった。ただ、明るいサウンドと対照的にリリックはけっこうシリアスだったりする(それもまたひとつのインディーロックらしさであるとも思う)。Wikipedia情報になってしまうが、アルバムタイトルのThe Windowとは、ヴォーカルのJuliaとその家族がCOVID-19流行に際して経験したことがベースになっているとのこと。音楽的な面ではトラッドなロックを鳴らしつつも(個人的には聴いていてビートルズや同時代のロックバンドを連想したぐらいだ)、背景にはまごうことなく「現在」が据えられている。

 好きな曲は#2「Morning Zoo」、#7「Empty」あたり。#2はカントリー風のフィドルと、内省的なリリックがツボ。#7も2コードで進むシンプルな曲構成と、どこか後ろ暗い雰囲気の詞世界との絶妙な絡み合いが好きである。

 

7.1STSET – TESTSET

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・7月には既にリリースされていた本作を今更聴き、フジロックでアクトを観られなかったことを非常に残念に思っているところ。メチャクチャかっこいいです。

 今年1月に急逝した高橋幸宏氏のプロジェクトであったMETAFIVEを母体とするユニットで、幸宏氏のレガシーとも言うこともできるのだろう。しかし、その経緯を知らずにひとつの新バンドとしてTESTSETを聴いたとしても、自分はきっとこれに惹かれていただろうと思える。

 テクノ〜クラブミュージックの質感をキープしながら、ギターやアクティヴなヴォーカルで人間味(と言っていいのだろうか)をしっかりと出していく感じ、改めて好きだなあと実感する。DJでかかっていても、ステージで演奏されていても双方違和感がない。

 #2「Moneyman」をはじめ、超キャッチーで踊れる曲が揃っている一方、#9「Stranger」のように浮遊感のあるメロと重目のリズムで言葉を聴かせる曲もあり。次回どこかでライヴを観られる機会があれば逃さないようにしたいところ。

 

8.Steppin’ Out – KIRINJI

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・前作『crepuscular』からもう2年経つのかあ、と驚きながら聴いたKIRINJIの新譜。感染症禍の影もあってか、どこか仄暗い雰囲気のあった前作に比べ、ポジティヴなムードを明確に感じる。同時に、時代の趨勢をしっかり掬い取るサウンドと歌詞世界は健在。

 兄体制以降のダンサブルなソウル・サウンドはそのままに、シンセ・打ち込み系の音とアコースティックなサウンドがほどよいバランスで共存しているのが特徴的(#9「Rainy Runway」など)。意外とここまで違和感なく溶け込んでいるのもないんじゃないだろうか。

 トレンドワードをストレートに拾ってリリックに昇華するテクニックも健在で、#3「指先ひとつで」では指ハートを前向きな気分のトリガーとして描き出し、#4「説得」では「論破は論外」と某コメンテーター的コミュニケーションにNoを突きつける。言葉の持つ力を(良い力も、悪い力も)信じているからこそ出てくる表現のようにも思える。

 個人的には、本作のクライマックスは#7「I♡歌舞伎町」であるように思う。少し不穏なイントロからメロウなヴァースに流れ込み、歌われる新宿の情景。『cherish』収録の「『あの娘は誰?』とか言わせたい」のアナザーストーリー感もある。ここ数年のKIRINJIの「視点」が凝縮された5分間。

 

9.The Land Is Inhospitable and So Are We - Mitski

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・日本をルーツにもつアメリカのSSW、Mitsuki“Mitski”Miyawakiの7thアルバム。2013年から活動していて7枚目なのでかなりコンスタントに出しているのでは? と思ったが、2018年まで年1ペースで出しており、そこから4年空いて6thの『Laurel Hell』が出ている。この『Laurel Hell』が比較的シリアスな色調だったのに比べると(好きですが)、今作はメロディアスかつゴージャスな音像が印象に残る。なんとなく、やはり感染症禍のピークに制作されたアルバムは内省的な雰囲気が強くなるのだろうか。

 #1「Bug Like an Angel」ではベーシックなアコギ弾き語りを中心に、時折重厚なコーラスが入る。そこから#2でトラックが少し増え、#3「Heaven」ではオケが参加している。ゆったりとした譜割りのヴォーカルとストリングスのサウンドが組み合わさって、どこか古い映画のサウンドトラックを思わせる。#7「My Love Mine All Mine」もコーラス隊が印象的な楽曲で、敢えて使っているであろうクリシェ的なコード進行がノスタルジック雰囲気をつくっている。いろいろな面でトラッドな音楽へのリスペクトを感じるつくりだった。

 今作に限らないが、Mitskiのアルバムは約30分前後とコンパクトに収まっているものが多い。ライヴとかだと何曲ぐらいやるんだろう。

 

10.Everything is alive – Slowdive

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Slowdiveというバンドにはもともとそれほど詳しいわけではなかった。いわゆるシューゲイザーの雄として、シンセも交えつつも飽くまでバンドサウンドでもってフィジカルな音を鳴らす人々、という印象をもっていた。それも間違いではないのだろうが、今年のフジロックでは意外にエレクトロニックな音を出していて意外に思ったのを覚えている。

 本作もどちらかというとエレクトロニクスの印象が強く、それゆえか、よりトランシーな雰囲気も多く感じる。歌詞も短文が組み合わさったシンプルなものが多く、現代詩、ないしこう言ってよければ俳句のような質感すら感じる。

 #1「shanty」はBmを基調とするアルペジオフレーズを鳴らし続ける打ち込みをバックに分厚い楽器陣が重なり、どこか遠くから聴こえるようなヴォーカルがそこに加わる。音像的には5分間大きな変化がないにもかかわらず、いつまでも聴いていられそうな没入感がある。と思えば、#3「alife」のようなポップさを備えた聴きやすい楽曲もある。#7「chained to a cloud」の打ち込みなどは昔やったゲームのBGMのようで、一抹の懐かしさもある。Slowdive=ゆっくりと潜る、というバンド名をそのまま体験しているような時間だった。

 

11.Almost there – GRAPEVINE

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GRAPEVINEはアルバム毎に新しい風景を見せてくれるバンドで、今回も先行シングル群を聴いた段階から非常に楽しみにしていた。

 #1「Ub(You bet on it)」では、自由度が高く、言ってみればあえて隙を多く残したところから一気にソリッドなロックサウンドに持ち込む流れが気持ちいい。「豚の皿」などもそういう構成だと思うが、このバンドの得意技といっても良さそうだ。#4「Ready to get started?」、久しぶりにコピーバンドなどしたくなるようなストレートな楽曲。この曲はベースよりギター弾きたいな。#5「実はもう熟れ」は一転してR&B・ソウルテイストの曲。シンセが主導権を握ってミニマルなトラックが鳴るが、それゆえにヴォーカルラインの豊かさとコーラスの美しさが際立つ。終曲#11「SEX」では、さまざまな読み方ができそうなリリックがトリッキーなリズムの上に乗る。SEXという概念について歌った楽曲とも言えそう。

 音楽的には引き続き幅広いエッセンスを取り入れていて、時に煙に巻くように、時に近すぎるほど近づいてきたりして、多様な面を見ることができる。一方で楽曲のメッセージ性という意味では他のアルバムと比較してわりあい直截的であるように思う。その対比が面白い。

 

12.Abandon All Hope – Ethan P. Flynn

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・自動車のハンドルを握って絶望的な顔をしている男が描かれたジャケットと、それをそのまま表現したようなアルバムタイトルが衝撃的な作品。ギター・ベース・ドラムを主体としたバンドサウンドでキャッチーさを担保しつつ、タイトルトラックである#2「Abandon All Hope」では「煉獄の様な時代だからとびっきりヘビーで不穏なギターを鳴らしたかった」として、実際に歪みの効いたギターが鳴っている。

 ポップな音像にさまざまな悩みや閉塞感(ソーシャルなものも、パーソナルなものも)を乗せて歌うという作り方にはUKオルタナのひとつの伝統のようなものも感じる。感じつつ、フックのつけ方にはクラブミュージックのようなノリも垣間見える。

 #4「No Shadow」も好き。No Shadow、というのも独特の英語表現だと思う(影がない=実体がない、地に足がついていない不安な気持ちと捉えればよいだろうか。OasisにもCast No Shadowという曲があったな)。“Where did you go?”というリフレインがあるのだが、1番と2番でコーラスとメインヴォーカルが入れ替わるのが印象的。

 

13.Javelin – Sufjan Stevens

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アメリカのソングライター・Sufjan Stevensの10枚目のアルバム。今作は大半を宅録で制作したという。

 #1「Goodbye Evergreen」から、穏やかに、柔らかに始まっていく。歌詞は別離とそれに対する祈りを思わせるもの(実際に、本作は今年4月に他界したSufjanのパートナー・Evans Richardsonに捧げられており、「喪の仕事」としての側面をもつ作品でもある)。

 全体的にピアノやアコギをフィーチャーした手触りのあるサウンドにハスキーなヴォーカルが乗り、聴きやすい。個人的には#4「Everything That Rises」から#5「Genuflecting Ghost」の流れが好き。

 

14.Lucky for You – Bully

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・パンキッシュなギターサウンドが気持ちいい1枚。パンクもそうだが、グランジが根底にあるサウンドで、奇を衒いはせずとも歪み一発に対する強いこだわりは感じる。そういえば、今年はいつになくNIRVANAもよく聴いていたような。

 楽曲自体も短くシンプルなものが多く、10曲で32分というコンパクトなサイズにはなっている。一方で聴き応えはしっかりある。

 ど頭(#1「All I Do」)とラスト(#10 All This Noise)がかなり好きだが、Soccer Mommyとのデュオ曲である#8「Lose You」も独特の雰囲気を放っていてよい。

 

15.Multitudes – Feist

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Feist、かなり長く活動している人なのに最近まで知らず、人に教えてもらって聴いてみた。

 良い。好き。#1「In Lightning」は民族音楽風のタムのビートに厚いコーラスが乗ったイントロが印象的で、オリエンタルな雰囲気をもっている。とはいえ、2曲目以降は比較的ベーシックな弾き語りメインの楽曲が多くなっていく。

 リリックについては言語の壁もあって読解に十分な自信がないが、音像としてはアルバム全体に壮大な物語を据えているわけではなさそうだ。それぞれに素朴な聴きやすさを湛えた楽曲の集まりという感じがある。それは決してネガティヴな意味を持たず、ある意味本作のタイトルである『Multitudes』という概念を体現しているようでもある。既にベテランといってよいキャリアをもつシンガーだが、今後じっくり聴いていきたい。

 #5「The Redwing」、#7「Of Womankind」、特に惹かれる。

 

 

●旧譜 (〜2022)

1.わたしの好きなわらべうた – 寺尾紗穂

・ポップスと民謡の関係性、みたいな話を人としていてふと思い出したアルバム。全国各地の童歌(わらべうた)を、寺尾さんがさまざまなジャンルにアレンジしている。

 日本の音階でできている童歌に西洋音楽の和声やリズムを乗せる、というトライアルが驚くべき完成度で果たされている。と同時に、そうした「異国」のアレンジに十分耐えうるどころか、それらと組み合わさることで新たな存在感を示す日本の童歌の“強度”も凄まじい。各曲の末尾には具体的な地名が記されており、これらの歌は実際にご本人が取材して採譜したものらしい(流石……)。

 ファーストトラックである#1「新潟 風の歌「風の三郎〜風の神様」」、ジャズアレンジの#7「茨城 七草の歌「七草なつな」」が好き。茨城は一応地元だが初めて聴いた。水戸とはちょっと別のエリアの歌のようなのでさもありなん。

 

2.Legend - Bob Merley & The Wailers

・日ごろ日本やアジアのポップスを聴いてレゲエがどうだのダブがどうだの、と言っているわりには本場ジャマイカのレゲエをきちんと聴いたことがなく、それはいかがなもんかということでボブ・マーリーを聴きなおしている。まずベスト盤から……。

 #1「Is This Love」のド頭からあの「カラララン」というサスティンの長いスネアのフレーズが入り、これこれェ、という気分になる。しかし、聴いていくほどに彼の音楽は非常に繊細で、緻密に作られたものであることが再認識できる。実際、先述の特徴的なドラムサウンドやブリっとしたベースなどをうまいことミックスするのは難しそうだ。

 なんとなく楽曲の形式的な部分だけが浚われて言及されることの多いジャンルであるように思うので、ときどきこうして原点となるアーティストを聴くのは大事だな、と改めて思うなど。

 

3.6th Saturday – JUNGWOO

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・一時期、韓国や台湾などの東アジアのポップスをよく聴いていたのだが、最近は韓国文学に関心があることもあって韓国ポップスを再度探している。Se So Neon、ADOYの関連アーティストをディグっているうちに辿りついたアルバム。

 「Jungwoo singer」で検索すると韓国インディーまとめサイトみたいなのが出てくるが、それ以上の詳細な情報はあまり出てこない(英語で調べているからだろう。ちなみに日本語の情報は自分の知る限りほぼゼロ)。Youtubeで調べると結構最近のライヴ映像が出てくるので、精力的に活動しているっぽい。

 弾き語りをメインの形態として活動しているようで、本作もアコギとヴォーカルのシンプルな構成をベースに、必要最低限のリズムセクションやウワモノが時々加わるといった趣。

 #2「From Me To You」や#5「Trashed」のような素朴なインディーフォークは天気のいい日に聴きたいし、しっとりバラードの#6「Wish」は夜が似合う。なかでも好きな楽曲は#8「Fall Dance」。マイナーキーのアルペジオに溜息のようなヴォーカルが乗り、リリックの意味は通じずとも何か深い別離を思わせる(Google先生の力を借りて翻訳してみると、本当にそういう内容だった)。ハングルの美しい発音が味わえる楽曲でもある。

 

4.Love Me / Love Me Not – HONNE

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・はからずもAnna of the North繋がりみたいになったが、サマソニでHONNEを観て以来久しぶりに聴きたくなり、暫く聴いていたアルバム(Anna of the Northは#5「Feels So Good」でヴォーカルをとっている)。

 すごくいいジャケットだな、と思う。二面性をテーマにしたアルバムの表紙を、鏡越しにこちらを見つめる人物で表現する。明らかにアジア人の特徴をもった人物として描かれているが、"HONNE"の由来が日本語の「本音」であることも踏まえると納得がいく。

 #1「I Might」のようなポジティヴな曲と#3「Day 1」のような少しブルーな曲が交互に登場し、またfeat.が比較的多いアルバムであるにもかかわらずとっ散らかった印象がないのは、HONNEのソングライティングにおけるディレクション/プロデュース力の賜物だろうか。

 正直、このアルバムが出たときはそこまでエレクトロニックやクラブミュージックへの関心も薄く、ほとんど聞き流していた。改めてサマソニのアクトを観てすごく良いなぁとなり、今作を聴き直す機会ができたことは素直に嬉しく思った。

 

5.Float Back To You – Holy Hive

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・ドラムの音が好き。

 

 

●Live

8/27 “avissiniyon“ @下北沢440

・uamiさんと君島大空さんのユニット、avissiniyonの東京公演。お二人の拠点が離れているということもあって1年に2回ぐらいしかライヴをやらないらしいので、今回は非常に貴重な機会。

 avissiniyonとしての作品はそう多くないようで、お互いのソロ作品や他アーティストのカヴァーの比重が多く、新鮮な楽しみのあるライヴだった。セッションのようなスタートからだんだん楽曲の輪郭がはっきりしていき、「あ、あの曲だ!」となる瞬間にのみ得られる心の滋養がある。

 uami「弾けて」、君島大空「扉の夏」のavissiniyonバージョン、細井徳太郎「エンガワ」、東京事変「御祭騒ぎ」、そしてアンコールのキリンジ「エイリアンズ」。他にも書き出したらキリがないが、恐らく音源化はされないであろうカヴァーの数々、できるだけ記憶に残しておきたい。いい夏の終わりだった。

 

9/17 “孤独の倍奏 第壱宵“ @荻窪 Velvet Sun

・LAIKA DAY DREAMのLeeさんが企画する「孤独の倍奏」の第一回(第壱宵)。「孤独の倍奏」という企画名にはバンドでなく弾き語りの形で(孤独)、しかしゲストミュージシャンと2人で(“倍”奏)という意味合いがあるよう。今回のゲストアクトはpaioniaの高橋さん。

 LAIKAもpaioniaもワンマンに行ったことがある(し今後また行きたいと思っている)ぐらいには大好きなバンドであり、今回のイベントも言わずもがな楽しみにしていた。そして、この企画の記念すべき初回に居合わせることができたことも非常に嬉しく思う。

 弾き語りやアコースティックセットの魅力は一言では言い表しにくいが、音源やバンドのライヴで親しんできた楽曲を「いつもと違う」サウンドで聴くことができることが第一にあり、故にリリックのきこえ方が違ったり、今まで気づかなかったコードのギミックに気づけたりといったことが挙げられると思う。それらをLAIKAやpaioniaの楽曲で一夜にして体験できるという、非常に贅沢な夜だった。

 

10/1 “Books & Something LIVE @新代田 FEVER

・10月のライヴだったけれど、週末だったし載せちゃう。FEVERでは、一昨年あたりから独立系出版社・書店のイベント「Books & Somethings」が開催されているのだが、それに合わせて開催されるライヴに柴田聡子さんとキセルのお2人(とキーボード野村卓史さん)が出演。1週間に2回柴田さんを観ている。

 柴田さんは今回弾き語り。バンドとは違う形で名曲たちを味わう。弾き語りで聴くときは「雑感」が特に好きだ。新曲「Synergy」のアコギVerも良かった。最近は文章に関する本をよく読んでいるらしい。

 キセルは昨年、吉祥寺でワンマンを観て以来か。イベント名に触れて「ぼくらはSomethingのほうですかね」とボケてひと笑いをとるなど、ユルい雰囲気をキープしながらもプレイはタイト。友晴氏のオリジナル楽器も例によっていろいろ聴くことができた。

 

10/14 ずっと真夜中でいいのに。原始五年巡回公演 喫茶・愛のペガサス @水戸市民会館 グロービスホール

・生まれ故郷の水戸で、東京に移ってから知ったユニットのライヴを観る。ちょっと不思議な気分だった。ライヴはもう言わずもがなよかった。茨城は初上陸だったそう。うれしい(オタク)。

今年はフェス入れると4回ずとまよ観ましたかね。サマソニでの完全にゾーンに入ったアレンジ満載のアクトも忘れがたいが、やはり単独ツアーの演出は毎回おもしろくて驚かされる。

 

11/6 FRUE Presents Tim Bernardes / Shintaro Sakamoto @WWW X

・盛大に仕事が長引いてしまい坂本さんは全く観られず、Tim Bernardesも途中からの観覧になってしまったが、それでも非常に印象的なライヴだった。サポートメンバーを入れない完全ソロでの演奏だったが、アコギ、エレキ、ピアノを駆使して豊かな音楽世界を繰り広げていた。端的に言って強い。特に歪んだエレキで弾き語りをするという難易度の高い(と勝手に思っている)パフォーマンスをモノにしていてすごかった。

歌はブラジル・ポルトガル語でMCは英語と、(南米では結構多いのかもしれないが)2カ国語を自由に切り替えていたところにもなんだか感じ入ってしまった。

 

12/7 betcover!! uma tour 2023@CLUB CITTA

・この1〜2年で一気に存在感を増した感のあるbetcover!!。2021年ごろから折に触れてライヴを見ているのだが、静かな狂気を孕んだ音像を保ちつつ演奏はどんどん洗練されていっている印象がある。テクニック的にはもちろん難しいが、メロディやコード進行自体はキャッチーというか歌謡曲的なポップさを常に確保していて、その辺に「正気」を残しつつぶっ飛んだライヴをしているのがすごい。

 「母船」が早くもアンセム化していて、イントロが始まると同時に歓声が上がっていたのがアツかった。