2023 Mar. Record & Live

 レコードとライヴ記録、3月編。年度が納まりますね。

2023年が4分の1終わったの、ヤバくないです?

 

●新譜(2023〜)

This Stupid World – Yo La Tengo

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Yo La Tengoってかなりキャリア長いよなーと思って調べてみたら、結成は1984年らしい。じつに39年。この年に大学を卒業して会社に入った人は既に1回目の定年を迎えているということになる。これだけ長い間バンドをやっていながら、まー古臭い感じがしないのがすごい。一方で音が厚いというか深い、鳴ってる音自体はシンプルだと思うけれど組み合わせ方だろうか。“This Stupid World”という若干青臭いアルバムタイトルも一周回って様になっている。

 #2「Fallout」のようなブリッとした歪みもカッコいいし、かたや#4「Aselestine」のアコースティックなサウンドと代名詞の多いリリックも不思議と耳に残る。

 

 

Red Moon In Venus – Kali Uchis

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・コロンビア生まれ、アメリカで活動するSSWで、今作で初めて聴いた。ジャンル的にはR&B、ヒップホップに分類されるみたい。本作は全体的に打ち込み+シンセのトラックが主体で、メロウな楽曲が多い。踊れる、というよりは謂わば「揺れれる」感じで、個人的には好きなタイプの音楽性。

 1枚のアルバムのなかで英語とスペイン語が使われているのが興味深い。インタビューでを読むとコロンビア出身というアイデンティティを大切にしていると語っているほか、法的にはアメリカ国籍と両方もっているらしい。リリックなども読み解いていければこの辺りの意図がちゃんと理解できるのかも(語学力が……)。#2「I Wish you Roses」、#8「Hasta Cuando」が好き。

 

 

Norm – Andy Shauf

・メロディがいい音楽はやっぱり強いな、というすごく当たり前な感想を抱いてしまう。けど、そのぐらいいい。

 #6「Norm」でときどき出てくるIVmを交えた進行には、どこか懐かしい空気を感じさせる何かがある。子どものころに親が運転する車のラジオで聴いた的な存在しない記憶が想起される。#9「Daylight Dreaming」は、フルート入りインディーフォーク大好き人間としては非常に助かるナンバー。サビで大胆な歪みギターとサックスのリフが入ってくるのも良い。

 リリックには”The promised land”、”God Almighty“あたりのワードが散見され、結構色濃くキリスト教文化の影響が入ってるなという印象。

 

 

UGLY – Slowthai

・Slowthai、ソニマニ来ますね。グライムというジャンルは彼のレコードで初めて知ったのだが、結構好き。日本語のメディアではラッパーと紹介されていることが多いが、影響を受けたアーティストにはバンド音楽をそれなりに上げているようで、曲を聴くとたしかになるほど、ってなる。

 #4「Feel Good」はトラックだけ聴いたらパンク〜ポストパンクと言われても違和感ないぐらいの音像だし、#5「Never Again」中盤のバンドサウンドに呟くようなリリックが乗る部分など、ラップというよりはハードコアにおけるスポークンワードっぽさもある。と思わせておいて#6「Fuck It Puppet」はガチガチのラップ。ともかくも単一のジャンル名では説明しきれない。相当幅広い音楽性を内包していそう。

 

 

Desire, I Want to Turn Into You – Caroline Polachek

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・全編に渡ってフィーチャーされているスキャットが良い。めちゃめちゃ歌が上手くて音域も広いので、一口にスキャットと言っても各曲で多彩なアレンジが聴ける。

 #1「Welcome To My Island」のリリック中にアルバムタイトルが入ってくるの、良い演出だなあ。この曲もスキャットの占める比重が大きいので、より曲中のタイトルコールが際立つ感がある。#4「Sunset」(先行トラックでもある)はラテンなアレンジですごく好みだった。歌詞はパーソナルな表現を用いつつも普遍的なクライシスについて綴られているような気がする。MVではCarolineがトラベルギターを弾いてて面白かった。

 Carolineが一時期東京に住んでいたという情報を最近知ったのだがどうでしょう、来日しませんかね。

 

 

Girl In The Half Pearl – Liv.e

・「リヴ」と読むらしい。テキサス出身、カリフォルニア(LA)拠点のミュージシャン。ヒップホップの人と解釈してよいと思うが、聴いていくとゴスペル周辺のアフリカン・アメリカン音楽への傾倒も色濃く、これまた一筋縄どころか五筋縄ぐらいいってるんじゃないかという幅の広さ、奥の深さがある。

 全体を通して裏で電子音がヒュインヒュイン鳴っていたり電話の音がしたりする。こういうアイデアというか、音の使い方は結構好きだったりする(ロックのアルバムではあまりない気がする)。DAWAbleton Liveを使っているとのこと。#7「Clowns」〜#8「Heart Break Escape」、John Callol Kirbyが参加しているという先行トラック#11「Wild Animals」が好き。

 

 

Follow the Cyborg – Miss Grit

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・韓国にルーツをもち、アメリカで活動するSSW・Miss Gritの1st。ちょっと難しい音楽かもな、というのが最初に聴いたときの感想だった。数回聴いていくうちに馴染んでいった部分が大きい。じっくり聴き込むの大事。

#3「Nothing’s Wrong」のズシッとした無機質なビートは今風っちゃ今風だけど、これが聴くほどに味わいが変わる感じがあって無視できない魅力がある。表題曲の#6「Follow the Cyborg」もビートはドライだが、オルタナライクなギターが結構前に出ていてそのギャップが面白い。

 こんな感じにジャンルや言語をクロスオーバーして新しい音楽を作っている人たちが、それなりの確率でギターヴォーカルという(ある意味トラッドな)スタイルでライヴをやっているのはちょっと興味深い。

 

 

H.Hawkline – Milk For Flowers

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ウェールズ出身のSSW。ケイト・ル・ボンとパートナー関係にあったというのは最近知った。非常に好きなテイストのロックアルバムだった。聴いていると楽器を手に撮りたくなる音楽というのが自分の中であるけれど、本作はどうしようもなくギターを弾きたくなる。

 #2「Plastic Man」の中後期ビートルズのような音像がいい。ギターのひび割れたような歪みがそう聴こえさせているのかも。ピアノもいい仕事している。#2がビートルズ感なら、#4「I Need Him」はジョン・レノンのソロ作に通じる美メロとアイロニーを感じる(他のアーティストに例えてばかりで申し訳ないけれど……)。シンプルなようで凝っているコードワークも好き。

 

 

 

●新譜以外(〜2022)

Chico Buarque de Hollanda – Chico Buarque

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・ブラジルの作家・音楽家シコ・ブアルキのファースト・アルバム。この時期のブラジルのソングライターのアルバムはセルフタイトルがめちゃくちゃ多くてこれもその例に漏れない。

 サンバのアルバムなのだが、本作を聴いたことで自分の中での「サンバ」のイメージはがらりと変わった。自分も含め多くの人にとって「サンバ」というとにぎやかなカーニバルでドンチャン鳴っているアレ、という印象があると思う。しかし実際には、(あの「ドッ、ドド」というリズムは特徴として前面に出しつつ)郷愁に満ちたメロディアスな楽曲も多い。サンバというジャンルの成り立ちからしてもそれはある意味必然なのだが。短く聴きやすいアルバムだが、特に#2「Tem Mais Samba」〜#5「Madalena Foi Pro Mar」までの流れは繰り返し聴いてしまう。

 

 

色々 – 倉橋ヨエコ

・もう15年前に音楽活動から引退されてしまった倉橋ヨエコさん。雨が降る日は必ず#11「今日も雨」を聴いている。ヨエコさんはピアニストなのでピアノで作曲をされていると思うんだが、この曲はギターの音がとにかくいい。ベストな歪み。歌詞も日本語の楽曲では両手の指には入るぐらいに好き(「閉ざした本に寝そべります」とかもうね)。

 ついこの間までなら#12「白の世界」、これからの季節は#1「桜道」がぴったりだろうか。「色々」というタイトルどおり、さまざまな温度やシーンを連想させる楽曲がバラエティ豊かに入っていて、最後に#13「春夏秋冬」という曲で締めるのがカッコよい。

 

 

Suis La Lune – Everything Else, Pt. 1

・大学時代に友人に教えてもらった「激情ハードコア」というジャンルを、一時期聴いていたことを思い出した。ふとまた聴きたいと思い、少し調べて掘ってみた。

……ない。サブスクに、ない。まあそのはずで、ジャンルの特性上アンダーグラウンドで流通した音源が多くを占める。いわゆる名盤とされるものでも数百枚単位でライブ会場手売りオンリー、みたいなのばかりっぽい。

そのなかでもスウェーデンのバンドSuis La LuneはApple Musicに音源があった(むろん全てではないだろう)。改めて聴いて、やっぱり結構好きだなと思った。コード4つぐらいで全然泣かせにくるし(ただしリズムとテンポは複雑)、ヴォーカルもほとんど絶叫しているだけなのにきちんと感動できる。かなり完成されたジャンルなのは確かだと思う。

 

Mysterious Blues – Charles Mingus

・一応10年ぐらいベースを弾いている身でありながら、Charles Mingusのレコードは数枚しかきちんと聴いたことがない。これからもっと掘っていきたい所存。

 その数枚のなかでは結構初聴きから印象に残っていて、繰り返して聴いているのが本作。しかしながらオリジナル・アルバムから外された曲たちのコンピらしい。

 RadioheadがAmnesiacかどれかを制作する際に参照したのがCharles Mingusだというのを何かで読んで以来、難解な音楽なのではないかという印象を勝手に抱いていた。しかし実際には、いずれもリスナーを突き放すようなことのない、スウィンギーなナンバーだと思う(かなり「まじめな」アルバムだとは感じるけれど)。

 

Lifetime – GRAPEVINE

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・毎年このぐらいの時期に地元(というか単なる出身地)に旅行(というか単なるぶらつき)に行く。なんとなく歩く距離が長いのでその間はずっと音楽を聴いているのだが、そんなアクティヴィティにGRAPEVINEのアルバムは最適である。勝手な印象だが、時間的・空間的な「移動」や、ブラジル音楽でいうところのサウダージを惹き起こさせるなにかがある。

 本作の#1「いけすかない」〜#4「光について」の流れを聴いてしまったら、もう最後まで聴かずにはおれない。「光について」など、よく聴くと高音で上がりきれていないところがあったりするのだが(それはそれで味なのだけど)、現体制のライヴではだいぶ厚みが増した演奏が聴ける。このバンドのライヴを観続けたいと思う理由のひとつ。

 

●Live

3/5 “Petrolz is in the air – spring again - ” @Zepp DIverCity TOKYO

 なかなかチケットが取れないでいたPetrolz、ついに。2度ほどコピーし(ようとし)たことがあるが、本当に難しかった。そんな難しいことを、たまたまふらりと遊びに来たような空気で2時間やってのけるのだから改めて恐ろしい。「止まれみよ」、「fuel」、そして「雨」など、学生時代から親しんできた名曲からポストロック然とした新曲まで、あくまで楽しく、そして圧倒されながら聴き惚れてしまった。

 演奏と関係ないがPetrolzはMCがゆるくてよい。喋ることを特に決めていないようで普通に長いのだが、喋りすぎと思わせない話術、いや話術でもないな、言葉の遊ばせ方とでも言いましょうか、が、ある。長岡さんと河村ボブさんがナチュラルにお互い「おまえ」呼びなのもなんだか良い(2人は高校の同級生)。昨今、二人称としてはとかく敬遠されがちな「おまえ」だが、忌憚なくそう呼びあえる関係性があるなら、それはきっと豊かなことだと思う。

 

3/17 “『巡礼する季語』〔東京〕” @下北沢440

 幽体コミュニケーションズのレコ発企画(2月の記事でご紹介したやつです)、対バンは水いらずと碧海祐人(おおみまさと)さん。水いらずは時間が合わず観ることが叶わず、残念。碧海さんはこの日初めて観た(聴いた)が、メロディもリズムもツボで、これから聴いていきたい音楽がまたひとつ増えた。曲によってガットギターにエンベロープ系? のエフェクトをかけ、それで弾き語りをしていたのも面白かった。

 幽体コミュニケーションズは新譜を聴いてからずっとライヴを楽しみにしていた。音源だけをまず聴くと、あえて言葉を選ばずにいうと「なんか難しい音楽」と受け取る人もいるかもしれない(私は好きだ)。だが、ある意味当たり前ではあるけれどライブはまた印象が違う。もちろん演奏のレベルは高いけれど、そこに敷居の高さをつくらないある種の素朴さというか、アコースティックな温かみがある(ダイレクトな電子音がないからキャッチーだとかそういうことでもないので、なかなか言語化が難しいけど)。そういう発見があるのは、やはりライヴの楽しみだと思う。ライヴゆえにヴォーカルの立ち上がりがよく聴こえて、リリックが聞きやすいのもよい。「ユ」、やっぱ最高だったな。