2023 May. Record & Live

 今年の5月ってなんか長くなかったですか、とTwitterで問うたら12もいいねがついた。これって結構共有されてる感覚なんだろうか。

 音楽もなんとなくじっくりしっくり聴けた感がある。とはいえ、今月は後半にかけて怒涛の新譜名盤ラッシュがあってうおおとなった。来月に持ち越したいものもいくつかあるので改めて。

 

●新譜(2023〜)

Exotico – Temples

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・サイケロックバンド、Templesの4thアルバム。2020年代にサイケをやっているという時点でその意思の貫徹ぶりに驚く。どこか古い音楽という印象を(勝手に)持ちがちだ。でも、このアルバムからはそういう古臭さはあまり感じず、素直に音像の面白さと楽曲のキャッチーさを受け止めて聴くことができた。プロデュースはあのジョン・レノンの次男、ショーン・レノン

 なんとなく全体にウェットな音作りで、ギターなども持続音が多いアレンジになっていて、普段聴いている音楽とはちょっと離れている部分もあるが、それも含めて楽しい。大型フェスで深夜に演奏しているところを聴いてみたい。それかクラブでかかっていても楽しいかもしれない(クラブなんてほとんど行ったことないですけど)。#5「Cicada」が好き。

 

 

Stereo Mind Game - Daughter

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・2010年代のバンドという印象をもっていたDaughterだが、ここへきて7年ぶりというフルアルバムが出た。早速聴いたが、メロディラインやサウンドスケープなど、元来もっていた特徴的な部分を残しつつどこかポジティヴな空気感が出ているように感じた。長期間、メンバーのソロ活動や環境の変化を経て、楽曲の作り方なんかも変わったのだろうか(そりゃ変わるか)。

 少しドライな別離を思わせる#2「Be On Your Way」〜#4「Dandelion」までの畳み掛けが好きである。特にDandelionのシャリッとしたアコギにローファイ気味のドラムが重なる音作りはUKインディならではといった印象で、自分が昔から好きだった音楽をいろいろ思い出した。

 その他#7「Junkmail」、#10「Isolation」も個人的フェイバリット。さらに言えばジャケットも良い。一見穏やかなようでいて、じっくり眺めているとちょっと不安になる。

 

 

PRIVATE - iri

・#1「Season」を聴いたとき、自分の悪い癖で「お、丸サ進行やな〜」などという失礼なファーストインプレッションを抱いてしまったのだが、これ聴き込むほどに結構クセになってしまった。無機質なようでいて繊細に組み上げられているリズムセクションと、ラップパートと歌唱パートのバランスがどれもくど過ぎなくて心地よい。むしろ定番のコード進行を使ってここまで新鮮味を持って聴ける楽曲を作り上げるスキルに驚くべきなのだろう。

 以前から名前はよく見かけていながらきちんと聴いていなかったのだが、思っていた以上に幅広い音楽性で、楽しく聴き通せた。#7「Go Back」、タイトルトラックである#10「private」が好き。ヴォーカルとしては低音が魅力に感じた。

 

 

Multitudes - Feist

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Feist、かなり長く活動している人なのに最近まで知らず、人に教えてもらって聴いてみた。

 良い。好き。#1「In Lightning」は民族音楽風のタムのビートに厚いコーラスが乗ったイントロが印象的で、オリエンタルな雰囲気をもっている。とはいえ、2曲目以降は比較的ベーシックな弾き語りメインの楽曲が多くなっていく。

 リリックについては言語の壁もあって読解に十分な自信がないが、音像としてはアルバム全体に壮大な物語を据えているわけではなさそうだ。それぞれに素朴な聴きやすさを湛えた楽曲の集まりという感じがある。それは決してネガティヴな意味を持たず、ある意味本作のタイトルである『Multitudes』という概念を体現しているようでもある。既にベテランといってよいキャリアをもつシンガーだが、今後じっくり聴いていきたい。

 #5「The Redwing」、#7「Of Womankind」、特に惹かれる。

 

 

e o - cero

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・#1「Epigraph」、豊かなコーラスに乗せて歌われる情景描写的なリリックで早速引き込まれる。派手なフレーズやフックがあるわけではないのに、退屈でなく、繰り返し聴きたくなる強度をもった音楽。バンド音楽がもつ可能性というものを再考したくなるアルバムだった。

 いろいろな人のレヴューを読んでいると、感染症禍以降の都市を現象学的に描きとりつつ、あくまでポップスのアルバムとしてキャッチーさを担保して成立させている点に注目している方が多く、なるほどと思った(たしかにそのように言語化してもらえると、そう思う)。先行シングルで出ていた#5「Fuha」や#6「Cupola」なども、最初聴いたときと、こうしてアルバムに並んでいるときとで聞こえ方が違う。この辺はすでにライヴでも披露されているのでイメージが広がって楽しい。

 個人的な趣味をいえば、楽曲として好きなのはやはり『Obscure Ride』期の「Yellow Magus」や「Orphans」だったりもするのだけど、ひとまず本作の面白さ、奥深さに感動しておきたい。

 

 

ひみつスタジオ - スピッツ

・幼少期に親の運転する車のステレオで聴いていたバンドが、今もこうして新しい作品を出し続けているというのは文字通りありがたいことだ。

 スピッツのメロディセンスや音作りのバランス感覚はもはや確たるもので、その辺りは完全に信用しきっているのだが、とりわけリリックの絶妙さには毎度驚く。#1「i-O(修理のうた)の終わり、「頼もしい君に会えてよかった」という一節など、なんということのない言い回しに見えてなかなか思いつかないだろう。そこからパンク回帰を思わせるナンバー#2「跳べ」に続いて、あとはなんだかもう怒涛である。

 #6「オバケのロックバンド」が素晴らしい。ブルース・ロック風のリフから入り、ビートルズライクなリズムが合流し、メンバー1人ひとりがリードヴォーカルをつないでいく。

 一貫して死と性の世界を描くスピッツ。特に草野マサムネ氏の歌声とルックスからはにわかに信じがたいことであるが、彼らは50歳をとうに過ぎている。しかしながら楽曲では溌剌とした若さがはじけているようにすら聴こえる。

 

 

Camera Obscura - People In The Box

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・こちらも一聴してグイッと引き込まれた1枚。PITBもまた都市の情景を描き、抽出し、コラージュして音楽にしていく技術においてずば抜けたものを持っているバンドだと思う。

 Camera Obscuraは直訳すれば「暗い部屋」で、現在使われている写真機としてのカメラの由来となった言葉だが、本作のアルバム名としても非常に秀逸だ。

 作曲・編曲の巧みさもさることながら、#1「DPPLGNGR」のズブズブと突き刺さるようなベースをはじめ、圧は強めながらも解像度を高く保ったミックスのバランスがよい。要所要所に入ってくる、ときにブラス・セクションのようにも聴こえるサスティンの長いギターの音もクセになる(#5「スマート製品」など。この曲は途中で入ってくる取説風の語りも好き)。

 PITBはまだライヴに足を運んだことがない。本作のツアーがもう始まっているが、どの公演かに行けるか、どうか。

 

 

大吉 - Summer Eye

・元シャムキャッツ・夏目知幸によるプロジェクトのファースト・アルバム。シャキシャキしたカッティングや打ち込みのドラムが主体となって進んでいくアルバムで、ライトな音像ではあるのだが、それはペラいというのとも違っていて……。言語化が難しいけれど、気持ちのよい聞き応えがある。

 先行シングル#6「人生」のサンバ風のビートなど、ブラジル音楽ファンとしてはかなり好き。インディロックのレイヤーにラテンやファンク、トロピカルが重なり、実際に使われているトラック数以上にカルチャー的に重厚なサウンドスケープが形成されていて、それがすごく面白い。

 歌詞も読んでみたら結構いろんなトライをしていた。#3「湾岸」のなかに「♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ 時間よ止まれ」というリリックがあってビビった(「♡」は「ラヴ」と読むみたい)。

 

 

●新譜以外(〜2022) 

Todas as coisas e eu - Gal Costa

・月半ばに行ったとある書店で#13「Folhas secas」が流れており、そういえばと思って改めてきちんと聴いてみる。ボサノヴァのスタンダード・ナンバーを集めているアルバムの特性上、1曲1曲が名曲で素晴らしい。Gal本人にとっても馴染みのある選曲であろうし、全体にリラックスした穏やかな雰囲気のアルバムだと思う。インストのアレンジも古臭くなく、20年前のアルバムという感じがしない。改めて、昨年に亡くなってしまったことが惜しい。

 

 

Diva - Astrud Gilberto

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・ブラジル編続きます。5月の頭、久しぶりに町田のブックオフでレコード探しをしていたらAstrud Gilbertoの国内版ベストをゲットした。LPで一通り聴いたあとにサブスクも入れておこうと思って探したら、その盤はなかった。ので、近い曲が入っているこのアルバムを落として聴いている。

 ハスキーな低域が特徴的で、他のボサノヴァのシンガーと比べてウェットな魅力がある。あと、結構な曲数を英語で歌っているのも興味深い。故にブラジル本国ではあまりピンとこない人が多かったらしいけれど。

 月並みだけれど#4「イパネマの娘」はやはり名曲。

 

 

図書館の新世界 - 図書館

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・「図書館」というバンド名でもう惹かれてしまい、さっそく聴いてみた。ヴォーカルの田中亜矢さんの優しいヴォーカルと、童謡のようなポップなメロディの組み合わせがなんとなく幼少期を思い出させる雰囲気がある。また、メンバーのひとりである近藤研二さんは「栗コーダーカルテット」のメンバーでもあるそう。これは聴いたことがあるぞ。

 #1「わかれのうた」、シンプルで短い曲ながらいろいろな要素が詰まっており、大好きな曲。#4「空前のパンダブーム」はおどけたタイトルとアジアンな雰囲気の楽曲とが相まって面白い。最近は活動しているのかなと思って調べたら、今年の頭にようやくTwitterアカウントができていた。

 

 

Jump Rope Gazers - The Beths

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・こちらも人に教えてもらい、知ったバンド。なんで今まで知らなかったんだというぐらいハマった。すごくポップでエッジが効いている。そして要所要所に入ってくるトリッキーな遊び、これも非常にツボ。

 歪んだギターをギャンギャン鳴らし、BPM200近いハイテンポなナンバーなんかもありつつ、全体的にコーラスがすごく綺麗だ。#2「Dying to Believe」なんてまさにそうだが、「ウーッ↑↑↑フゥゥー↓↓↓」みたいな超チャーミングな相の手を入れた直後に叙情的な上ハモを入れてきたり、構成が結構凝っている。

 #7「Don’t Go Away」ではタイトルに違わないしっとりしたメロディも聴ける。

 

 

友だちを殺してまで。 - 神聖かまってちゃん

・5月13日にトリプルファイヤー・鳥居真道氏主催の「鳥居ゼミ」に参加した。Nirvanaの『Nevermind』を取り上げた回だったのだが、話の流れで神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」が曲名だけ登場し、なぜだか無性に聴きたくなってしまった。

 「ロックンロール〜」しかり、#4 「23才の夏休み」しかり、構成的にはかなり王道で聴きやすいポップスであることに今更気づく。乗っかっているヴォーカルの処理や歌詞世界が、独特の(オブラートに包んでいます)雰囲気をつくるのに圧倒的なイニシアティヴをとっているんだな、と。そのバランス感覚は何歳になって聴いてもおもしろい。

 

 

●Live

5/7 “peeeky ” @下北沢BASEMENT BAR

 Seukol、今年何回目? という感じですがこの度もよかった。というか、やはり聴くたびによくなっているのがすごい。以前のアクトがダメだったとかそういうわけでは勿論ないのだが、毎回披露されるニューアレンジやフレーズを通して、リスナーも新しい発見をしていける、そんな楽しさがあるバンドだ。個人的に「Anemone」はズッシリとした現状のアレンジが好き。「Supernatural」の最後の掛け合いもどんどん良くなってく。

 この日はあともう1バンド聴いて、すごくよかったのにバンド名を忘れてしまった。ベーシストのルックスとムーヴが最高すぎた。

 

5/7 “yama acoustic live tour 2023「夜と閃き」” @EX THEATER ROPPONGI

 コロナ禍に入ってすぐ、Apple Musicでたまたま聴いてハマったのがきっかけでなんとなく3年ほど聴いていたyamaさんですが、ここへきて初めてのライヴへ。昨年Travisを観に行ったEX THEATERにて、アコースティック編成(弦カル+ピアノ)のアクト。

 当たり前のことを言うな、という感じだが本当に歌が上手い。ライヴでも上手いので、本物である。結構特徴的な発声スタイルだと思うんだが、ピッチも外さないし声の立ち上がりも綺麗なので、リリックもしっかり聴ける。アコースティックということもあって声の綺麗さが際立って聴こえたかも。「春を告げる」はさすがにグッときた。

 意外だったのが、MCで結構ちゃんとしゃべる。「ありがとう」だけ言って去るタイプだと思っていた、ごめんなさい。

 

5/13 “Come with Me!!“ @法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎地下1階多目的室1

・ドキドキしながら法政大学の学生会館(的なとこ)の地下に潜り、ライヴを観た。目当てのバンドは水いらず、合わせてar syuraも観ることができた。最近の水いらずのライヴは大がかりなパーカッションのセットも組み込まれている。楽曲の個性や演奏力もさることながら、視覚的にもテンションが上がる。ar syuraはジャズのエッセンスも感じられるカッコいいポストロック。ベースヴォーカルの方は法政の近所である東京理科大出身だとMCでおっしゃっていた。自分はド文系だが、理系の勉強をしてきた人が作曲や演奏のときにどんなことを考えているかというのはずっと関心をもっているところだったりする。

 そして、法政の地下ライヴスペース、ちょっと本格的すぎて驚いた。どこかの新しめのライブハウスですよと言われても違和感ない。PAセット、照明とも相当立派。

 

5/13 “『季節のつかまえ方 解体編』” @梅ヶ丘hmc studio

・先月に引き続いて1日にライヴ2本をハシゴするという真似をしている。今回はどちらも東京だし、楽しかったのでよしとする。

 リリースされて間もない新譜を聞いたうえで、アコースティックセットでのスタジオライヴ。当たり前のことながら音源とは異なる音の構成・アレンジで聴くので、色々と発見もあって楽しかった(ここの歌詞ってこう歌っているんだ、等々)。小規模なライヴならではのライトな距離感も個人的には好みだった。それに加えてサクッと素敵なカヴァーが聴けるのもアコースティックならではでしょうか(少年隊の「ABC」、よかった)。

 hmcもgoodな雰囲気のスタジオで、コーヒーも美味しい。なんとなく東京のいいところを満喫した1日だった。

 

5/20 “元素どろ団子TOUR” @Zepp Fukuoka

・ずとまよの背中を追ってついに福岡まで行ってしまった。本ツアーの休日の日程が福岡ぐらいだったのである。しかし、それだけの理由で飛行機嫌いの私を飛行機に乗せるぐらいの魅力が今のずとまよにはある。

 今回はグランドピアノ+アコギ+etcのアコースティック編成のツアー(とここまで書いていて今月はアコースティックセットのライヴばかり観ているなと気づく)。ACAねさんお素の歌の上手さがギャンギャンに体感できた。

 「ハゼ馳せる果てるまで」のアレンジがとても好(ハオ)い。途中のカヴァー曲コーナーでsupercellの「君の知らない物語」をやっていたのも個人的にアツかった(高校のときにコピーした)。