2023 June. Record & Live

 6月はやや忙しかった。故に駆け足で聴いたり聴けなかったりした音楽もあったのでその辺は改めて夏の間に聴きたい。

 

●新譜(2023〜)

Petals to Thorns – d4vd

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・2005年生まれの18歳(エグい)、オンラインゲームの配信者という出自をもつソングライターの1stアルバム。パキッとしたコンプのかかったギターのサウンドと、要所で効果的に使われるクリシェ進行は、こう言ってよければ日本人好みのサウンドスケープとも感じられる。日本の漫画やアニメを色々見ているそうなので、これはなにも偶然ではないかもしれない。一方でゴスペル風のメロディラインや、重ためのスネアが聴いたミックスなんかはアフリカン・アメリカン音楽の特徴っぽい。インプットの幅も総量もすごそう。

 実家のクローゼットでスマホに歌を吹き込むところから楽曲制作をスタートした、というバックグラウンドも興味深い。東京のワンルームでの宅録から始めた人たちのムーヴメントと重なるものを感じる。フジでどんなアクトが見られるのだろうか、楽しみ。#2「Here With Me」、#7「You and I」が好き。

 

My Soft Machine – Arlo Parks

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・先月に何曲か先行配信されたときから楽しみにしていたアルバム。歪んだギターが前面に出た、ロック色の強い楽曲がちょいちょいあるのを少し意外に思いつつ、やっぱギターってカッコいいなとホッとする(?)。昨年のフジでもバンドセットで出ていたし、手触りのある人力サウンドにはこだわりがあるのかもしれない。InstagramでArloがテレキャスを弾いている写真が上がっていたけど、ライヴでも弾くんだろうか。

 #4「Blades」、Phoebe Bridgersと共に歌う#7「Pegasus」、#10「I’m Sorry」あたりがフェイバリットかなーと思いつつ、聴いていくうちに好きな曲はどんどん増えそうだ。

 歌詞もまた良い。使われている語彙はシンプルながら、結構幅広く解釈しようのある配置になっている気がする。←と思っていたら、Arloの創作の出発点は文学だったということがインタビューでしっかり語られていた。一篇の詩として通用するものが書かれているわけだ。

  

Teenagers – French 79

・草原で大きな旗を振っているジャケットが印象的。 今回はじめてアルバムを聴いたエレクトロニック・ダンスポップのコンポーザーで、マルセイユを拠点に活動するSimmon Hennerという人物ののソロプロジェクトらしい。#4「Foix」、#5「Heroes」、#6「Memories」の流れは繰り返し聴いてしまう。

 エレクトロニックは普段よく聴く音楽ではないので、その歴史や地域性については道のことが多いが、本作のように低音がバキバキすぎず、ミニマルかつちょっとファジーなシンセが鳴っているタイプのジャンルはかなり好き。ほどよくテンションが効いているコード感も好み。この感じはフランスをはじめ、南欧のエレクトニカの傾向なんだろうか? 昔コロナ前に遊びに行ったイベントで知り合いのDJがフランスやイタリアのトラックをかけていて、独特のコード遣いとメロディラインに「こういう音楽もあるんだなあ」と思った記憶がある。関連アーティストをもう少し掘ってみようと思う。

 

 The Omnichord Real Book - Meshell Ndegeocello

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・Meshellのベースは、ベースという楽器が「リズム楽器」であることを再認識させてくれる。ベースだけを音源から抽出したとしてもちゃんと踊れそう。

 Apple MusicなんかではJazzと分類されており、実際それも間違いではないのだろうけれど、もっとずっと幅広いジャンルを包括したアルバムになっている。結構ガッツリ打ち込みのトラックが鳴っている曲でも、その上にさらに人力のリズムセクションやサックスなどのソロ楽器が乗っていて、それが不自然でなく曲としてまとまっている。サラッとやっているように見えるがすごい技術とセンスだと思う。

 そこまでエグいことをやってい(るであろう)ながらも、あくまでどの曲もキャッチーで聴いていて疲れないというところがまた感動ポイントだった。

 冒頭のような「ベースが作るリズム」を感じられる#5「Omnipuss」、荘厳な#8「Gatsby(feat. Cory Henry & Joan as Police Woman)」、有無を言わさずカッコいい#15「Vuma(feat. Joel Ross & Thandiswa)」好き。

 

ANIMALS – Kassa Overall

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・これもまた強烈な印象のジャケット。ドラマーでありプロデューサーでありMC、という人物で、作中のドラムはもちろん本人が演奏しているのだろう。今年の春にApehx Twinらが所属するWarpにレーベル移籍したそう。

 ライドを多めに使いつつ、そこかしこに変拍子フレーズを織り交ぜる感じはジャズっぽいが、各曲の雰囲気自体はクロスオーバー的というか、ヒップホップやR&Bっぽさも感じる。ときにはゴスペルライクな分厚いコーラスも入ったり。「The Omnichord〜」と無理くりつなげるようでアレだけれど、やはりJazzというカテゴライズには収まらない幅の広さとキャッチーさが同居していて魅力的。

 リリックは彼自身の精神的な課題やアフリカン・アメリカンとして生きてきた中での想いが込められている……と各種サイトにはある。#6「The Lava Is Calm(feat. Theo Crocker)」の歌詞を読んでみたが、自分の英語リテラシーでは読み取りきれていない言外のメッセージも多くありそうだ。また腰を据えて聴きたい。

 

sametarayume EP - uami

・EPだけれどどうしても載せたくなってしまって。少し前に読んだインタビューではiPhoneガレバンで楽曲制作をされていると仰っていたが、今もそうだろうか。まあ、仮にそうでなかったとしても、惹きつけられる曲ばかりということに変わりはない。

 どの曲にもヴォーカルが入っており、歌詞もついているが、全体に声をひとつのインストゥルメントとして解釈しているような印象を受ける。基本にあるのが特徴的なウィスパーボイスで(そういえば2年前ぐらいに読んだインタビューでは、「昔は声を張って歌っていた」みたいなことが書いてあってびっくりした記憶がある。それはそれで聴いてみたい)、そこへ割とガンガンにエフェクトをかけたり、サンプリングして重ねたりなどなど、聴いていて面白い。そしてふとした瞬間に雪崩れ込んでくるブレイクコア風ビート。これガレバンで作れんのか……。

 福岡を拠点にしている方だが、嬉しいことに東京でライヴを観る予定が2回ある。

 

サーフ ブンガク カマクラ(半カートン) - ASIAN KUNG-FU GENERATION

・これもEPなんだけれどやっぱりどうしても載せたくなってしまって。

「サーフ ブンガク」は、湘南や横浜で(一応)青春時代を過ごした自分にとって非常に印象深いアルバムなので、再録かつ江ノ電のすべての駅を揃えた「完全盤」が出ると聞いてずっとワクワクしている。そのイントロダクションとしてのこのEPも楽しく聴いた。

 アジカンのルーツであるWeezerを思わせるシンプルなギターのフレーズやズンタタ系のリズムを聴いていると原点回帰の感じも受けるが、一方で#1「石上ヒルズ」の歌詞を見ていると「3年で化石になったスマホの端まで 猛スピードの申し子」なんてフレーズが出てきたりして、時代を精確に切り取るゴッチのワードセンスが光っている。元の「サーフ」は2008年のアルバムだから、まだまだガラケー全盛だったはずだ。CARAMELMANのカヴァー、#5「湘南エレクトロ」、キヨシさんのドラムと喜多さんのギターがキレッキレでシンプルにカッコいい。

 

沈香学 – ずっと真夜中でいいのに。

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・今更なにを言うまでもなく大好きなシンガーなのだが、本作に関しては当初、そこまでワクワクしていたわけではなかったことを告白する。というのは、全13曲のうち(1日だけ先行配信された#1「花一匁」はノーカンとしても)じつに10曲が既に世に出ていた楽曲だったから。ずとまよの曲は色々なメディアでタイアップで出ていたりして、かつこのサブスク全盛の時代、配信シングルを集めて各自でプレイリストにしてもらうことなんかもできちゃうわけだ。ここでアルバムを出すと言っても、どんな感じになるんだろう?

 そんなアレコレはどうでも良くなるぐらいよかった。まず、アルバムで初出となった2曲が良い。#5「馴れ合いサーブ」はブラッシュアップされたサウンドに初期EPっぽい青臭いリリックが乗っていていい意味で脳がバグるし、#13「上辺の私自身なんだよ」はシブいダブ。ベースでしっかりめにテンション感を作っているのも超好き。

 曲順も最終的にいいバランスになっていると思う。制作時期もタイアップ先も結構バラバラな楽曲群であるだけに、1つのアルバムとして不自然なく組み上がっているのに敬服する。

 

ノイジールーム EP – MAISONdes

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・いやこれもEPなんだけど以下略。高橋留美子原作の『うる星やつら』のアニメリメイク版のOP/EDを中心に組まれたEP。アニメは実は観ていないのだが、#2「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ(feat.花譜) &ツミキ」がほら、変なバズり方したでしょう。それで知ったというのも失礼な話なのだけれど、ちゃんと「元ネタ」を聴いたら普通にいい曲だったという。

 MAISONdesというのがそもそも流動的なプロジェクトで、主にボカロPや歌い手を「入居者」として迎え入れ、楽曲制作に取り組んでいくというやつだそう。

 どの曲も楽しくて好きなんだけど、#3「トラエノヒメ(feat. むト & Sohbana」がちょっと異彩を放っていて面白い。イントロとAメロBメロ、サビで全部キーが違うし、ラップしたりスイングしたり。やりたいこと全部やってる感じが却ってクール。個人的にはyamaさんのファンなので#5「アイタリナイ」もストライク。やっぱボカロ系は歌詞のダブルミーニングの使い方上手いな。

 

 

●新譜以外(〜2022)

Mummer - XTC

XTCのなかではあまり売れなかったアルバムと聞く。言われてみれば地味っちゃ地味というか、素朴でフォークな曲とサイケ色の強い曲が混在していて、まとまりのない印象はあるかも。でも1曲1曲聴いていけばそれぞれに魅力があるというのは流石だと思う。

 #1「Beating of Hearts」〜#2「Wonderland」のどアタマ2曲は普通に流れとしても好き。#1のアジアンな弦楽器の応酬とヨーロッパの山間部の踊りみたいなビートのフュージョンが面白い。#7「Ladybird」も、これこそ地味とも言えてしまうのかもしれないけれど、ちょっとThe Beatlesの中期曲の雰囲気なんかも感じられて自分は好き。

 

Esperanza - Esperanza Spalding

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・ベーシストにしてソングライターかつシンガーという意味でMeshell Ndegeocelloと(たまたま)キャラが被ったが、楽曲から受ける印象がこれほど異なってくるのもまた面白い。「2ndアルバムには名盤が多い」みたいな話をたまに聞くけど、これもまた名盤だと思う。

 1曲めはリオのシンガーソングライター、Milton Nascimentoのカヴァー、「Ponta de Areia」。実は(個人的)2023年ブラジル音楽聴こうキャンペーンはここでちゃんと繋がっている。ここでEsperanzaポルトガル語で歌っているが、本作ではさらにスペイン語、英語も使っている(母語は英語)。Donald Harrisonがサックスを演奏している#6「She Got to You」も好きなジャズナンバー。

 

So kakkoii 宇宙 – 小沢健二

 

・たまたま街中やライヴの開演前SEでふと聴く機会があり、久しぶりにアルバムを通して聴いてみた。コロナ前(2019年10月)にリリースされたアルバムで、年月の早さに気が遠くなったり切なくなったりしながらも最後にはじっくり浸っていた。

 #1「彗星」、全編に織り込まれたストリングスのメロディと、ラスサビ半音上げというある意味ベタなアレンジがノスタルジーを突っついてくる。まんまとグッとくる。#10「薫る(労働と学業)」、「おそれることもなき好奇心を 図書館の机で見せつけてよ」という歌詞の素晴らしさ。一生懸命勉強している同級生をちょっとバカにするような奴もいるけれど、否、So kakkoiiんだということを端的に表現している。

 

Francis Trouble – Albert Hammond Jr.

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The Strokesのギタリストのソロワーク。まっすぐなビートと、ギターが前面に出たインディーロック然としたサウンドが逆に印象的。キャリアの長いバンドの作品でも多様なジャンルがクロスした作品が多く出ているここ数年、ビッグネームのメンバーの作品としてはちょっと珍しいぐらいロックに振ったアルバムなのではないだろうか(2018年の作品)。まあ、故にソロで出したというのはあるだろうけど。

 #2「Far Away Truths」、あのトレードマークの白いストラトで録ったであろうキャリっとしたコードカッティングが気持ち良い。そこから続く#3「Mutes Beatings」、#4「Set to Attack」のメロウな流れも良い。

 

The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars – David Bowie

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David Bowieの伝記映画を5月末に観にいった。正直、彼に関しては知らない部分も多かったので、映画の形でその一部だけでも知ることができたのはありがたいことだった。やったら長いアルバム名だが、本作にはちゃんとしたコンセプトがあり、タイトルも曲の並びもそれに沿ったものになっている。ある意味壮大なロックオペラのようなアルバムなのかも。

 曲はあくまでポップ。先述の映画のエンドロールでも流れていた#4「Starman」が好き。地球を救うロック・スター「ジギー・スターダスト」の到来を告げる明るいナンバーだが、サビ終わりの【B♭-B♭m-F-D7/F#】のブルージーな進行には一抹の切なさもよぎる。

 

 

●Live 

6/2 “『季節のつかまえ方 実践編』” @青山 月見ル君想フ

 先月にお邪魔した「解体編(アコースティックセット)」に続き、バンドセットの「実践編」。いやあ楽しかった。曲によってはキーボードとパーカッションの方も加わってより原曲の雰囲気に近いアレンジで演奏される。

 アコースティックだと歌メロの良さやリリックがよく聞こえて良い、みたいなことを書いた記憶があるけれど、バンドにはバンドの楽しさがきちんとあって、それは3人ないし5人のグルーヴだったり絶妙なリズムのバランスだったり。それを1か月のうちにどちらも体験できるなんて、こんな贅沢なことがあるでしょうか。

 贅沢といえば、小西康陽さんのDJゼロ距離で観れちゃったな。たまたま陣取ったのがDJブースの真隣で、ディスク替えたり曲繋いだりするところじっと見てしまった。

 

6/25 LOSTAGE the TOUR” @F.A.D. YOKOHAMA

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 以前からその存在は知っていたバンド、LOSTAGEのライヴをついに観に行った。厳密には五味岳久さんの弾き語りを2回観たことがあり、その時に曲がかなり自分好みであることには気づいていたのだが。

 3ピースバンドでありながら、音の厚みがすごい。もう1人のギターがどこかに隠れているのではないかと思ったほどだ。綿密なアレンジとミックス、あるいはPAとの信頼関係の賜物なのだろうが、とにかく積み上げてきたものの大きさを感じるサウンドスケープだった。

 なおLOSTAGEはサブスクに曲を上げておらず、CD音源もどこにでも売っているわけではない。Youtubeに数曲MVが上がっているので「瞬きをする間に」をよく聴いていたが、今回生で聴けてとてもよかった。対バンはCountry Yard、こちらも熱いバンドだった。