2023 Feb.Record & Live

 レコードとライヴ記録、2月編。音楽を身近に感じている人間としては、寂しいニュースも今月は多かった。一方で新しく出会う音楽もコンスタントにあり、そこは楽しめています。これからも引き続き。

 

●新譜(2023〜)

巡礼する季語 - 幽体コミュニケーションズ

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・どの曲も「音楽を聴く」という体験を超えて、美術館で見るインスタレーションのような印象を受けた。弾き語り風のギターとヴォーカルの奥でじわじわノイズが鳴っていたり、エフェクトの掛かった声が別チャンネルから聞こえてきたり。メンバーのpayaさんはインタビューでヒップホップ的なコラージュ手法からの影響を語っていて、「音楽に音楽以外の文脈を差し込むことができる」ということについて言及している

https://realsound.jp/2022/10/post-1146538_2.html)。

 一方で単なる音の洪水に終止するのではなくて、ベースにあるのはあくまで歌モノのよう。メロディもコードもある意味でベーシックな聴きやすさを湛えていて、音像の複雑さと対比できて面白い。

 

Raven – Kelera

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・シンガーとしての実力もさることながら、トラックもカッコいい。ベースを弾く人間としてはやはりなんとなくベースを聴いてしまうが、#4「On the Run」のウニョっとしたサウンドも面白いし、#12「Sorbet」のアンビエント風の音像も好き。随所に引き算の美が感じられる。#7「Contact」はApple Musicでも星がついていて、かなり聴かれているのが伺えるけど、納得。全曲の中でいちばんキャッチーだけど、「解放」をテーマにしているようなリリックも読み込むと興味深い。"Oh it's a sauna"ってどういう文脈なんだろう?

 

あのち - GEZAN & Million Wish Collective

・近年の民族音楽風、トライバルな音楽性が前面に出ている印象。#5「We All Fall」のようにヴォーカルを楽器のように解釈してトラックに乗せているナンバーが好き。人間が最初に触れる楽器は声であると言ったのは誰だったか。#6「TOKYO DUB STORY」では関西弁の台詞を散りばめて地域性を出しているのも面白い、タイトルはTOKYOなのに。しかし「標準語」も東京の、関東の方言であることをは忘れられがち。中心的なるもののプロテスト? #7「萃点」、#12「JUST LOVE」のようなメロディ自体の良さもやはり魅力。

 

イノセント - スガシカオ

・#1「バニラ」からもう面白い。どうしたらこんな節回し思いつくんだろう? イントロからAメロに至るまでの流れとサビの対比が印象的で惹き込まれる。 #3「叩けばホコリばっかし」などはシンプルにカッコいいファンク。というか、スガシカオは久しぶりに聴いたのだが、こんなに多彩な曲作りをする人だったのかと今更驚いた。ファンクやソウル、ポップスらへんの幅広いジャンルを横断し、解釈し、的確に楽曲に昇華していく力を改めて感じる。

  そしてやはり歌詞、言葉選びの妙は流石……。#6「痛いよ」、タイトルから最高だが歌詞まで含めてハマる。サビ頭に「めんどくさい〜」と持ってくるこの感じ。

 

Let’s Start Here. - Lil Yachty

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・ど頭の#1「the BLACK seminole.」からオルタナライクな歪んだギターがギャンギャン鳴っていて面白い。ドラムも打ち込み感は薄くアコースティックな雰囲気(というかこれは実際録ってるのかな)。それでいてヴォーカルはエフェクトがかかったヒップホップのそれなのでなんだか新鮮で、グッと掴まれた感がある。一方で#3「running out of time」のように重いスネアとベースを効かせたファンクなナンバーももちろん聴き応えしっかり、という感がある。

 あとはこのアルバム、ジャケットが不気味ながらもコミカルで好き。恐らくAIイラストの類だと思うけど、そもそもフォーマルなスーツの大人たちが満面の笑みでいるっていう場面にある種のちぐはぐさがありますよね。

 

宿縁 - ASIAN KUNG-FU GENERATION

・じつは最近のレコードたちをじっくり聴き込めていなかったアジカン。ごめんなさい。でもこのシングルは初めて聴いたときから好きで結構リピートしている。

 #1「宿縁」のぐんぐん前進するテンポとm7-5を交えた半音階下がり進行には思わずアガる。

 個人的には#2「ウェザーリポート」がベストトラックかも。シンプルかつ重めなビートに、テンションノートを要所に入れたメジャーともマイナーともとれるコードたちが乗っかって進んでいくのだが、ここに喜多さんのヴォーカルが入ってきて、これが堪らなくいい。どこか掴みどころのないリリックとの親和性も。

 #3「日坂ダウンヒル」はなんとなく多くの先人へのリスペクトを感じるアレンジ。2000年代を丸々見てきた中堅ロックバンドとしてのリリックの説得力も流石というほかない。結論、どの曲も好き。シングルなのにいちばん文章長くなっちゃった。

 

●新譜以外(〜2022)

Ultra Mono - Idles

ニーチェからの影響を感じる(特に歌詞)。「Ne Touche Pas Moi」、「Carcinogenic」あたりの直球歪みサウンドニルヴァーナなどのグランジの空気感もありつつ、「A Hymn」などはポストパンクへのリスペクトが結構明確に表れていそう。棹物のピッチベンドが効果的に使われたヒステリックな音像とストレートなリズムの同居も面白い。

 重ための曲作りの割にトラック数がおそらくそんなに多くなくて、比較的すっきりと聴きやすいミックスになっているあたり、ある種の意外性を感じた。ライヴで聴くとまったく印象が変わる可能性もありそうで、フジで見られるのが楽しみ。

 

Central Reservation - Beth Orton

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・最近、表題曲のリミックスVer. のレコードを手に入れた。そちらはダンサブルでハイテンポなアレンジ。故に元のアルバムもきちんと聴いてみることにした。ら、非常に好きなタイプの音楽性! #1「Stolen Car」のどこか無機質な感じも好みだし、一方で#4「So Much More」〜#5「Pass In Time」のアコースティックサウンドの流れも良い。かと思えば#7「Stars All Seem to Weep」のような打ち込み曲もあって面白い。1枚のアルバムのなかでもけっこう広い音楽性を持たせているが、いずれも違和感なく歌いこなせているあたり技量もすごい(そりゃそうだ)。当たり前だが最新譜のアンビエントな雰囲気とはまたかなり違いがある。

 

3 - キリンジ

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・昔から聴いている超名盤だけど、なんとなく「なんで好きなのか」が知りたくて通してじっくり聴いてみた。

 恐らく色んなところで言われていることだろうけど、一貫して「周縁的なもの」「非-主人公的なもの」への眼差しが色濃く表現されているアルバムという気がする。みんな大好き#6「エイリアンズ」は言わずもがな、#3「アルカディア」のザバービア感もそうだし、#5「悪玉」でプロレスにおけるアンチヒーローを(どこか呑気なサウンドで)描いているのもそうだし……。キリンジは特に歌詞が好きなバンドのひとつだけど、まさに上記のような視点の置き所に非常に惹かれる。

 

Elis & Ivan - Elis Regina & Ivan Lins

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イヴァン・リンスのどこかねっとりした優しい声とエリス・レジーナのソウルフルな声が交互に聴ける。音の交互浴だ(何)

 冒頭3曲の流れが特にナイス。#3「Illuminados」、リンスのテンポを揺らす歌い方が心地よい。

 MPBに総じて見られる傾向だとは思うけど、まあ兎に角コード遣いが巧みだ。使われるコードの種類も単純に多いけど、テンションコードやセブンスの使い方が旨い。上手いし、旨い。非常に意識的に作り込まれた音楽ながらドヤ感(?)はなく、こう言ってよければある種の聴きやすさが担保されている。緻密かつ、極めて開かれた音楽だと思う。

 

Livro - Caetano Veloso

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カエターノ・ヴェローゾが著書『Verdade Tropical』を執筆すると同時に制作したアルバム。1人のアーティストが本(それも自著)と音楽アルバムを連動させて作ったというのは他にあまり例がない気がする。

 MPBというジャンルの面白さが惜しみなく盛り込まれた内容だと思う。ボサノヴァやサンバの要素を残しながらも、アメリカのジャズ等々、他のジャンルから学んだ特徴的な部分が端々に反映されている。

 #2「Livros」、フルートの不穏なオブリとどっしりしたリズムの対比が耳に残る。結構色んなことやってる本作の中でも異色なアレンジな気がする。#10「Nao Enche」、ポジティヴなポップスのようでありつつも、要所要所の転調だったりが凝っていて好き。

 

 

●Live

2/15 ”冬にわかれての 東京で会いましょう vol.1” @渋谷WWW

 寺尾紗穂さんを通して知った「冬にわかれて」。東京でライヴをするのは恐らく久しぶりということで早速チケットを入手。対バンはナオキ屋、とんちピクルス

 沖縄は読谷村から来たナオキ屋さん、地元のハードオフでしか見たことのないCASIOのスピーカー付ギターでの弾き語りとレギュラーグリップのドラムスという異色の2人体制。逆にWWWではそうそう見られないであろうインディーズライクな熱量が印象的。ナオキさんが終演後、会場を出るオーディエンスに一人ひとり声をかけておられたのがよかった(僕も一言だけお話させていただいた)。

 福岡からのとんちピクルス(あとでTwitterで調べたら松浦さんという方らしい)、ウクレレの弾き語りだったり、トラックを流してのラップだったりと、ソロ参戦ながら幅広いスタイルを展開されていた。倍音成分がよく効いた豊かな歌声で毒っ気のあるラップを繰り出す感じはかなり面白かった。「野比のび太の30年後」という物語に乗せ、独身中年男性(バツイチ)の悲哀を歌うヒップホップナンバー「どうだいドラえもん」が好き。

 そして冬にわかれて。そのメンバー構成である必然性を強く感じるバンドっていくつかあるけれど、冬にわかれてもそう。寺尾さんのピアノと歌、伊賀さんのベース、あだちさんのドラム、いずれもが替えの効かない存在である。初めて生で聴いてみると、リズムが恐るべき精密さであることに気づいた。ドラムがダイナミックな揺らぎで遊びつつ、ベースが足場を支え、コードとヴォーカルも決して崩れない。いずれのパートからも目が離せない密度の濃いライヴだった。

 

2/22 “betcover!! tamago tour 2023 w/paionia” @横浜 buzz front

 今年オープンしたばかりのライヴハウス、buzz frontにてbetcover!!のツアー初日。

 paioniaを観るのはなんだかんだで2年ぶりほどにはなろうか。当然、昨年のアルバム『pre normal』が発表されてからは初のライヴということになるので非常に楽しみにしてきた……のに、前の予定が押して少し遅れた。アルバムの中でも特に好きな「人の瀬」に間に合ってよかった。このバンドはギターがソロを弾いている間にベースがハイポジで動き回っていたりするのだが、不思議と崩れない。バンドとしてのまとまりが揺るぎない。すごいことだと思う。

 betcover!!は昨年、渋谷のWWWで初めてライヴを観てかなり食らった。今回は新譜『卵』のツアーということで事前に聴き込んでおいたが、やはり怪作とも言うべき内容だった。これがライブでどう聴けるのか? ……えげつなかった。まず全員、音楽がめちゃくちゃ上手い。そして恐らく音楽的なバックグラウンドが超幅広い。これらの要素が組み合わさった結果、歌謡曲風のメロディとリリックが流れる裏で爆音の歪みギターとバキバキのベースが唸っている、みたいな光景がステージ上で繰り広げられるのだが、それらが全部良い。良いし、必然。なんだかクダクダと文字で表現しようと頑張ってみてしまったが、これは実際に観て聴いたほうがずっと早い。

 

2/26 “細井徳太郎、君島大空、瀬尾高志『泥砂に金』”@公園通りクラシックス

 初めての場で、初めての「泥砂に金」を。

 ひとこと、すごく楽しかった。エレキ2本とコントラバスのセッション形式で持ち曲をやっていくスタイルなのだけど、正にこういうのを変幻自在というのだろうなという……とにかく目まぐるしく展開が展開して(←?)でも決して崩れない。とても高度な演奏をしているはずなのに、不思議と肩に力は入らない。こういう音楽があるんだなあ。

 細井さん、君島さんのライヴや音源でよく聴いているナンバーが「こんな感じになるんや!」という驚きも度々味わえて(個人的には『向こう髪』のエレクトリックアレンジに一発くらった。そういえばアコースティックアレンジとは言うけどエレクトリックアレンジってあまり言いませんね)非常に新鮮だった。ほんとに良かったので、また行きます。

 そして「公園通りクラシックス」がまたとても素敵な空間だった。地下駐車場の一角のような場所にあるのだが、扉を開けると文字通り別世界が広がっている。奥のほうにピアノも置いてあったのでジャズやクラシックも対応していそう。その辺りも今後チェックしてみたい。