2023 . Record & Live September

 この秋、いろんなとこからいろんなアルバムが出ていて正直追い切れていないのが現状である。聴きたいものはたくさんあるのに時間が有限すぎる。「既に1周は聴いているが感想を言語化できていないので次月に持ち越したアルバムがかなりある」ことをここに記しておきたい。

 

●新譜(2023〜)

Steppin’ Out – KIRINJI

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・前作『crepuscular』からもう2年経つのかあ、と驚きながら聴いたKIRINJIの新譜。感染症禍の影もあってか、どこか仄暗い雰囲気のあった前作に比べ、ポジティヴなムードを明確に感じる。同時に、時代の趨勢をしっかり掬い取るサウンドと歌詞世界は健在。

 兄体制以降のダンサブルなソウル・サウンドはそのままに、シンセ・打ち込み系の音とアコースティックなサウンドがほどよいバランスで共存しているのが特徴的(#9「Rainy Runway」など)。意外とここまで違和感なく溶け込んでいるのもないんじゃないだろうか。

 トレンドワードをストレートに拾ってリリックに昇華するテクニックも健在で、#3「指先ひとつで」では指ハートを前向きな気分のトリガーとして描き出し、#4「説得」では「論破は論外」と某コメンテーター的コミュニケーションにNoを突きつける。言葉の持つ力を(良い力も、悪い力も)信じているからこそ出てくる表現のようにも思える。

 個人的には、本作のクライマックスは#7「I♡歌舞伎町」であるように思う。少し不穏なイントロからメロウなヴァースに流れ込み、歌われる新宿の情景。『cherish』収録の「『あの娘は誰?』とか言わせたい」のアナザーストーリー感もある。ここ数年のKIRINJIの「視点」が凝縮された5分間。

 

 

The Land Is Inhospitable and So Are We - Mitski

・日本をルーツにもつアメリカのSSW、Mitsuki“Mitski”Miyawakiの7thアルバム。2013年から活動していて7枚目なのでかなりコンスタントに出しているのでは? と思ったが、2018年まで年1ペースで出しており、そこから4年空いて6thの『Laurel Hell』が出ている。この『Laurel Hell』が比較的シリアスな色調だったのに比べると(好きですが)、今作はメロディアスかつゴージャスな音像が印象に残る。なんとなく、やはり感染症禍のピークに制作されたアルバムは内省的な雰囲気が強くなるのだろうか。

 #1「Bug Like an Angel」ではベーシックなアコギ弾き語りを中心に、時折重厚なコーラスが入る。そこから#2でトラックが少し増え、#3「Heaven」ではオケが参加している。ゆったりとした譜割りのヴォーカルとストリングスのサウンドが組み合わさって、どこか古い映画のサウンドトラックを思わせる。#7「My Love Mine All Mine」もコーラス隊が印象的な楽曲で、敢えて使っているであろうクリシェ的なコード進行がノスタルジック雰囲気をつくっている。いろいろな面でトラッドな音楽へのリスペクトを感じるつくりだった。

 今作に限らないが、Mitskiのアルバムは約30分前後とコンパクトに収まっているものが多い。ライヴとかだと何曲ぐらいやるんだろう。

 

 

Everything is alive – Slowdive

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Slowdiveというバンドにはもともとそれほど詳しいわけではなかった。いわゆるシューゲイザーの雄として、シンセも交えつつも飽くまでバンドサウンドでもってフィジカルな音を鳴らす人々、という印象をもっていた。それも間違いではないのだろうが、今年のフジロックでは意外にエレクトロニックな音を出していて意外に思ったのを覚えている。

 本作もどちらかというとエレクトロニクスの印象が強く、それゆえか、よりトランシーな雰囲気も多く感じる。歌詞も短文が組み合わさったシンプルなものが多く、現代詩、ないしこう言ってよければ俳句のような質感すら感じる。

 #1「shanty」はBmを基調とするアルペジオフレーズを鳴らし続ける打ち込みをバックに分厚い楽器陣が重なり、どこか遠くから聴こえるようなヴォーカルがそこに加わる。音像的には5分間大きな変化がないにもかかわらず、いつまでも聴いていられそうな没入感がある。と思えば、#3「alife」のようなポップさを備えた聴きやすい楽曲もある。#7「chained to a cloud」の打ち込みなどは昔やったゲームのBGMのようで、一抹の懐かしさもある。Slowdive=ゆっくりと潜る、というバンド名をそのまま体験しているような時間だった。

 

 

Heaven – Cleo Sol

・こちらも前作『Mother』から2年経っての新譜(実は今年、もう一枚『Gold』というアルバムが出ているのだが今回はこの『Heaven』を聴きました)。前作がタイトル通り、母という存在、もしくは母としての自身をテーマとしていたの対し、今作のテーマは「神」あるいは「神的なもの」といったところだろうか。実際にリリックに「God」という単語がよく出てくる。アルバムタイトルも「Heaven」だ。まあ母→神にテーマが変遷した、というのは読みとして浅すぎる可能性は十分にあるが、とはいえリリックを読んでいると、少なくとも前作以上に普遍的なトピックを歌っているとは思う(キリスト教圏ではMotherと言ったら聖母マリアを指すこともあるのかもしれんし、その辺りの宗教的な語の扱いについてはまだまだ勉強中)。

 前作を聴いたときの感想が「“祈り”という概念を音にしたとしたら、こんな感じなのだろうか」というものだった。R&Bやソウルなどを基調としながらもゴスペル風のコーラスが多くフィーチャーされていたためにそう思ったのだろうが、今作でもそんな「祈りサウンド」は健在だったように思う(#5「Old Friends」、#6「Miss Romantic」等)。一方でサウンドそのものは多様なジャンルを横断していて幅広く、面白い。

 

 

no public sounds – 君島大空

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・前作『映帶する煙』の興奮醒めやらぬうちに2枚目のフルアルバムがお出しされてしまった。君島さんは、特に弾き語りのライヴなどで頻繁に未発表の新曲を演奏するイメージがある。今作ではそうした楽曲もいくつか音源化されており、そういった意味でも非常に嬉し買った。

 今作の製作背景や『no public sounds』というアルバム名の由来などについては特設サイト(https://www.fujipacific.co.jp/ohzora_kimishima/)に詳しく記されている。曲ができたときの感情の昂りが醒めないうちにそれを「対内/対外へ(再)提示したい」という思いのもとつくられた楽曲集であるとのこと。

 たしかに#1「札」のガッツリ歪んだギターサウンドは(もちろん緻密に組み上げられたロジックもあるのだろうけれど)その場で大胆に放出されるエネルギーをダイレクトに反映したかのように感じる。#3「諦観」や#4「˖嵐₊˚ˑ༄」で鳴っているキラキラした音たちも、そのとき生まれた音の稚魚たちをそのまま録音機に写しとったような生命感だ。(同時に「まともじゃ何も聞こえはしない音」というリリックにドキッとしたりする。吉増剛造に影響を受けたという彼の詩はとても独特な手触りだ)。

 #9「- - nps - -」から終曲「沈む体は空へ溢れて」の流れもあまりに美しく、何度でもリピートしてしまう。

 

 

Almost there – GRAPEVINE

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GRAPEVINEはアルバム毎に新しい風景を見せてくれるバンドで、今回も先行シングル群を聴いた段階から非常に楽しみにしていた。

 #1「Ub(You bet on it)」では、自由度が高く、言ってみればあえて隙を多く残したところから一気にソリッドなロックサウンドに持ち込む流れが気持ちいい。「豚の皿」などもそういう構成だと思うが、このバンドの得意技といっても良さそうだ。#4「Ready to get started?」、久しぶりにコピーバンドなどしたくなるようなストレートな楽曲。この曲はベースよりギター弾きたいな。#5「実はもう熟れ」は一転してR&B・ソウルテイストの曲。シンセが主導権を握ってミニマルなトラックが鳴るが、それゆえにヴォーカルラインの豊かさとコーラスの美しさが際立つ。終曲#11「SEX」では、さまざまな読み方ができそうなリリックがトリッキーなリズムの上に乗る。SEXという概念について歌った楽曲とも言えそう。

 音楽的には引き続き幅広いエッセンスを取り入れていて、時に煙に巻くように、時に近すぎるほど近づいてきたりして、多様な面を見ることができる。一方で楽曲のメッセージ性という意味では他のアルバムと比較してわりあい直截的であるように思う。その対比が面白い。 

 

 

タイムライン – ロースケイ

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・「ロースケイさん」という呼び方がそもそも合っているのかよくわからないぐらい、実態が掴めないでいるアーティスト。Twitterのプロフィールには「作詞・作曲・プロデュース」と書いてあり、曲は自身がつくりつつ、ヴォーカル等々に他のアーティストを迎えるタイプの人っぽい。

 で、歌っている人の人選が面白く、所謂シンガーではなく、漫画家や作家、プランナーだったりする。

 そもそもロースケイ(さん)を知ったのも漫画『三拍子の娘』の作者である町田メロメ先生が参加しているからだった(#2「ハローアゲイン」、#7「春は瞬いているか」で歌っている。普通に上手い)。

 宅録チックなローファイサウンドで、ドラムなどは打ち込みをそのまま使っているのだろうと思うが、それがキャッチーなメロディラインと相俟っていい感じのDIY感に昇華されている。ザ・打ち込みの曲って連続して聴くと疲れることも多いのだけど、本作に関してはその感じがなく、通して楽しく聴けた。

#8「見えなくなる(feat.菅田)」など、普通にドラマのEDとかで流れてても違和感ないぐらい良質なポップス。

 

 

●新譜以外(〜2022)

6th Saturday – JUNGWOO

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・一時期、韓国や台湾などの東アジアのポップスをよく聴いていたのだが、最近は韓国文学に関心があることもあって韓国ポップスを再度探している。Se So Neon、ADOYの関連アーティストをディグっているうちに辿りついたアルバム。

 「Jungwoo singer」で検索すると韓国インディーまとめサイトみたいなのが出てくるが、それ以上の詳細な情報はあまり出てこない(英語で調べているからだろう。ちなみに日本語の情報は自分の知る限りほぼゼロ)。Youtubeで調べると結構最近のライヴ映像が出てくるので、精力的に活動しているっぽい。

 弾き語りをメインの形態として活動しているようで、本作もアコギとヴォーカルのシンプルな構成をベースに、必要最低限のリズムセクションやウワモノが時々加わるといった趣。

 #2「From Me To You」や#5「Trashed」のような素朴なインディーフォークは天気のいい日に聴きたいし、しっとりバラードの#6「Wish」は夜が似合う。なかでも好きな楽曲は#8「Fall Dance」。マイナーキーのアルペジオに溜息のようなヴォーカルが乗り、リリックの意味は通じずとも何か深い別離を思わせる(Google先生の力を借りて翻訳してみると、本当にそういう内容だった)。ハングルの美しい発音が味わえる楽曲でもある。

 

 

Dream Girl – Anna of the North

ノルウェー出身のSSW。それでof the Northなのだとしたら、なかなかストレートで素敵。9月25日に渋谷で来日公演があり、そのときに初めて知った……と思ったら、HONNEのアルバムのフィーチャリングで聴いていた。

 最新アルバムは2022年の『Crazy Life』だが、ヒット曲#1「Dream Girl」が入っている本作を多めに聴いていた。表題作のほか、#2「Leaning on Myself」など、ライヴやフェスでのコール&レスポンスを想定したフレーズが入った曲が印象的で、基本的に外向きな方向性を持った人なのかなと思う。一方、#5「Lonely Life」のようにアーバンな雰囲気で、メロディを聴かせるタイプの楽曲もあり、曲作りの幅自体は広いよう。あと、#6「Interlude」は

Interludeというタイトルの曲にしては珍しく歌詞がきちんと入っているのが面白かった。

 ライヴも観てかなり興味が湧いたので、改めてファーストと最新作もきちんと聴いてみたい。し、また来日する機会があれば行ってみたいと思う。

 

 

Love Me / Love Me Not – HONNE

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・はからずもAnna of the North繋がりみたいになったが、サマソニでHONNEを観て以来久しぶりに聴きたくなり、暫く聴いていたアルバム(Anna of the Northは#5「Feels So Good」でヴォーカルをとっている)。

 すごくいいジャケットだな、と思う。二面性をテーマにしたアルバムの表紙を、鏡越しにこちらを見つめる人物で表現する。明らかにアジア人の特徴をもった人物として描かれているが、"HONNE"の由来が日本語の「本音」であることも踏まえると納得がいく。

 #1「I Might」のようなポジティヴな曲と#3「Day 1」のような少しブルーな曲が交互に登場し、またfeat.が比較的多いアルバムであるにもかかわらずとっ散らかった印象がないのは、HONNEのソングライティングにおけるディレクション/プロデュース力の賜物だろうか。

 正直、このアルバムが出たときはそこまでエレクトロニックやクラブミュージックへの関心も薄く、ほとんど聞き流していた。改めてサマソニのアクトを観てすごく良いなぁとなり、今作を聴き直す機会ができたことは素直に嬉しく思った。

 

 

●Live

9/17 “孤独の倍奏 第壱“ @荻窪 Velvet Sun

・LAIKA DAY DREAMのLeeさんが企画する「孤独の倍奏」の第一回(第壱宵)。「孤独の倍奏」という企画名にはバンドでなく弾き語りの形で(孤独)、しかしゲストミュージシャンと2人で(“倍”奏)という意味合いがあるよう。今回のゲストアクトはpaioniaの高橋さん。

 LAIKAもpaioniaもワンマンに行ったことがある(し今後また行きたいと思っている)ぐらいには大好きなバンドであり、今回のイベントも言わずもがな楽しみにしていた。そして、この企画の記念すべき初回に居合わせることができたことも非常に嬉しく思う。

 弾き語りやアコースティックセットの魅力は一言では言い表しにくいが、音源やバンドのライヴで親しんできた楽曲を「いつもと違う」サウンドで聴くことができることが第一にあり、故にリリックのきこえ方が違ったり、今まで気づかなかったコードのギミックに気づけたりといったことが挙げられると思う。それらをLAIKAやpaioniaの楽曲で一夜にして体験できるという、非常に贅沢な夜だった。

 

 

9/25 “CRAZY tour“ @渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

・Anna of the Northの来日ツアー……に、柴田聡子さんが出るというのでお邪魔しました。各位、誠にありがとうございました。

 柴田聡子 in FIREでは何度かライヴを観たことがあるけれど、この日の体制ははじめて観るものだった。特にベースがまきやまはる菜さんという方で、ハイエンド系の5弦を使っており、プレベ使いのCoffさんやかわいしのぶさんとはまた違ったアプローチで柴田サウンドを支えていらした(ちなみに普通にめちゃめちゃよかった)。

 Anna of the Northは非常にアクティヴなステージングで、知らない曲も多かったが楽しめた。観客との距離感も近く、MC中に前方の観客に日本語を聞いたり、シャツをぶん投げたり、最後のDJタイムでは観客席に降りて躍りまくるというナチュラルボーン陽キャムーヴをぶちかましていた。賑やかな動きに持っていかれがちだったがライヴも(当たり前だが)普通に上手く、楽器隊も含めていいバンド感が出ていたと思う。

 

 

10/1 “Books & Something LIVE @新代田 FEVER

・10月のライヴだったけれど、週末だったし載せちゃう。FEVERでは、一昨年あたりから独立系出版社・書店のイベント「Books & Somethings」が開催されているのだが、それに合わせて開催されるライヴに柴田聡子さんとキセルのお2人(とキーボード野村卓史さん)が出演。1週間に2回柴田さんを観ている。

 柴田さんは今回弾き語り。バンドとは違う形で名曲たちを味わう。弾き語りで聴くときは「雑感」が特に好きだ。新曲「Synergy」のアコギVerも良かった。最近は文章に関する本をよく読んでいるらしい。

 キセルは昨年、吉祥寺でワンマンを観て以来か。イベント名に触れて「ぼくらはSomethingのほうですかね」とボケてひと笑いをとるなど、ユルい雰囲気をキープしながらもプレイはタイト。友晴氏のオリジナル楽器も例によっていろいろ聴くことができた。