2024年2月 Record & Live

2月の記録。今年は閏年でしたね。1ヶ月がいつもより24時間長いって、結構デカい。 

 

●Records

Weird Faith – Madi Diaz

ハリー・スタイルズのバックバンドのメンバーも務めたギタリスト・ソングライターであるMadi Diazの6枚目のアルバム。全体にフォーキーでシンプルな音像が印象的で、メロディアスなヴォーカルラインと親しみやすいコード遣いがダイレクトに刺さる。

 結構どの曲も甲乙つけがたいぐらいに好きだったが、選ぶとしたら#2「Everything Almost」と#4「Hurting You」か。特に後者の、ピアノに乗せて歌われる素朴な歌声がとても癖になる。リリックも印象的で、「Hurting you is hurting me」「So I do it alone」といった、親密な人との悲しい経験や自立を思わせる言葉が並び、逆説的なラヴソングのような仕上がり。

 

Oh No – Same Side

・The Story So Far、Elder BrotherといったバンドでギタリストをしているKevin Geyerのソロプロジェクト……と書いたが、正直今まで知らない人だった。本作を聴いて、興味が湧いている。

 10曲で27分のコンパクトなアルバム。かわいいシンセサウンドにローファイなヴォーカルが乗る#1「Before」からSparklehorseのような音楽性をイメージした。実際にはそのあたりの片鱗は感じつつも、もう少しストレートなロックサウンドで、素直に気持ちよく聴ける。ギタリストというだけあってギターの表現の幅が広く、ガシッと歪んだ音から#3「Cruise」のようなアコースティックサウンドまで、27分の間にいろいろ聴ける。

 

Wall of Eyes – The Smile

・The Smileの新譜。じつはそこまで活動を追っていたわけではなかったが、とはいえ中学生時代からRadioheadを聴きまくっていた自分としては流石にスルーできるわけもなく。

 もう多くの人がレビューを述べていると思うので自分がここで言うまでもないのだが、素晴らしい楽曲群だった。特に好きなのは#4「Under Our Pillows」と#7「Bending Hectic」。一度はあれだけバンドサウンドから離れたトムが、なんだかんだで弦楽器にこだわりながら作曲し続けているのは興味深い。あと、The Smileではよくトムがベースを弾いている印象があるが、ベースを弾きながら歌うのとギタボするのとで(本人が)どんな違いを感じているのか気になる。

 

Harm’s Way – Ducks Ltd.

・カナダのギターポップデュオの2ndアルバム。ジャキッとしたクリーンギターの音とシンプルなリズムがよい(よく知らなかったが、彼らの楽曲のようなサウンドをJungle Popというらしい)。

 全編を通して、シングルストロークでチキチキ鳴っているハイハットがどこか垢抜けないながらも独特の疾走感を醸し出して面白かったのだが、どうもこれは打ち込みらしい(RatboysのMarcusがドラムを演奏している曲もある。Ratboysのメンバーは他にも結構参加しているよう)。そんなDIY感とパーソナルな歌詞が全体をまとめつつも、Thin Lizzyなどの先人へのリスペクトも込められており、“今”感とクラシック感とのバランスが絶妙。#4「Train Full of Gasoline」と#5「Deleted Scenes」の流れが好き。

 

Snow from Yesterday – Manu Delago

ビョークのツアーメンバーなども務めるパーカッショニスト、Manu Delagoの新譜。ハングと呼ばれる打楽器(UFOのような形をしていて、手で叩く場所によって音が変わる)の名手だそう。

 個人的には、一聴しただけでは「パーカッショニストが作曲した」とは気づかないほど曲調が幅広く、自身の演奏楽器に囚われないアイデアの深さを感じた。リズムよりもむしろメロディ、ハーモニーの妙に重きを置いている印象。

 ヴォーカリストのコレクティブ・Mad About Lemonをフィーチャーした歌ものもよいが、特に惹かれたのは#2「Little Heritage」や#5「Ode to Earth」といったインスト楽曲。曲調やタイトルから、なんとなく「文明以降」をテーマにしているのかな、という雰囲気を感じる。

 

Digital Heartifacts – L Devine

・L Devineというソングライターのことは本作で初めて知ることとなった。同じタイミングで聴いた1stアルバムがかなりエレクトロ寄りになのに対してこの2ndアルバムは生楽器のサウンドが目立つ。少しリサーチしてみるとThe ClashSex Pistolsからバンド音楽に入ったらしく(それはそれで意外)、あくまでギターサウンドがルーツにあるのだと思う。

 #1「Eaten Alive」のリフレインはどこかRadioheadの「Where I End and You Begin.」を思わせ、綺麗なヴォーカルに不穏な歌詞を乗せるUKの伝統のようなものをちょっと感じる。#2「Push It Down」、#5「Miscommunikaty」はアコギのアルペジオが電子ビートに乗って現れ、不思議なチル感。#9「Bully」はシンプルなトラックに切実な詞が刺さる。

 

新解釈コラボレーションアルバム「いきものがかりmeets」 – Various Artists

・西田修大氏がアレンジし、君島大空氏がギターで参加している#9「じょいふる(アイナ・ジ・エンド)」を目当てに聴いたが、全編通して面白いアルバムだった。

 いきものがかりは正直、しっかり追っていたバンドではなく、小学校の「お昼の放送」でよく流れていたから有名な曲は知っているという程度。しかし、本作ではそれこそ自分と同年代で、小学生時分にリアルタイムでいきものがかりを聴いていたであろう人々が楽曲をどう再解釈するかというのが見れる(聴ける)。20年でJ-Popに起こったサウンドの変遷が垣間見える感じ。

 #8「ブルーバード(yama)」〜上述「じょいふる」〜#10「YELL(ゆず)」の流れが好き。「YELL」がめっちゃ「さよならエレジー」っぽいなと思ったら、アレンジャー同じ人らしい。

 

1624 - EP – No Buses

・No Busesは折に触れて聴いてはきたが、なんとなく初期アクモンやリバティーンズに通じるインディー〜ガレージサウンドのバンド、というイメージをもっていた。が、このEPではかなりオルタナみが深いというか、ギターの使い方やヴォーカルの処理などかなり細かく、かつ幅広い表現を試している印象を受ける。

 #1「Slip, Fall, Sleep」はメランコリックなクリーンギターのアルペジオから入り、情景描写メインのリリックが穏やかに歌われた後に歪んだギターがガッと入る。サビはなし。#2「Ecohh」はシンセベースとヴォーカルエフェクトがヒップホップのような空気感をつくる。#3「Distance」ではまたテクニカルなギターが聴ける。アルバムはどんなものになるのだろうか、楽しみ。

 

Country of Frenzy -熱狂の国- – LA SEÑAS

・今いちばんライヴを観に行きたいと思っている音楽集団のひとつがこのLA SEÑAS(ラ・セーニャス)。おそらく世界各地から集めた打楽器(と、ときどき弦楽器)奏者がウン十人集まってひとつの楽曲を演奏しているシーンはSNSで流れてくる短い動画でも圧巻。

 ほぼ打楽器のみで構成された音楽というのは今まであまり聴いてこなかったのでどんなものだろう、と思っていたのだが、ただただカッコいい。表題曲の#2「Country of Frenzy」でハートを掴まれてしまった。小学校のときに音楽の授業で聴いた、インドネシアの「ガムラン」をちょっと思い出したりもしたが、きっとリファレンスは世界中の音楽だろう(#9「Japanesque」は日本の祭囃子ですよね)。ちなみにLA SEÑASはスペイン語でThe Signという意味だった。

 

Mount Matsu – Yin Yin

・今年のフジロックに来ることが決定しているオランダのバンド、Yin Yin。アジア文化への憧憬を西洋のダンスビートに昇華・ブレンドしつつ、アルバムごとになんらかのテーマを据えているようだが、ここへきてジャパンがテーマのアルバムがやってきた。

 #1「The Yeat of the Rabbit」は卯年ってことかしら(もう終わったけど)。和なフレーズを頑張ってギターで出してるの可愛い〜と思っていたら予想外のリズムでドラムが入ってきて軽めに度肝を抜かれる。曲全体は結構シブめでそれもギャップ。続く#2「Takahashi Timing」は幸宏さんへのオマージュかと思ったら、絶対に遅刻をしない日本人マネージャーを称える曲らしい。なんやそれ。刑事ドラマ風の#5「The Perseverance of Sano」、ギターのカッティングがクールな#「Tokyo Disco」も好き。

 

ROUNDABOUT – タニタツヤ

・少し前まではヨルシカでベースを弾いている人、というぐらいの認識だったのだが、#2「青のすみか」に普通にハマってしまい、ちょいちょい聴いている。

 たぶんその気になればゴリゴリに(ベースを)弾きまくれるというか、そういうアレンジができる方なのだと思うけれど、曲を聴いていると意外なほどシンプルな部分もある。ヴァースで動いたあと、コーラスではルートに徹したりなど。なんていうところを聴いていると、ある意味それもベーシスト然とした曲作りなのかもしれないなと思った。あくまで歌モノとして、各パートに目配せをしながらテクいところとメロを際立たせるところのバランスをとっていく感じ。バンマス、コンダクター的な視点がしっかりあって興味深い。

 

Where we’ve been, Where we go from here – Friko

・またすごく好きなバンドに出会ってしまった。友人に「これ聴いてみ」と連絡をもらって聴いてみたのは2週間ほど前だが、それからというもの折に触れて再生している。#1「Where We’ve Been」からもう好きだった。叙情的な歌メロにモッタリしたドラム、そしてだんだん盛り上がって参りまして、最後は爆音ギター。嫌いなわけがないです。

 なんとなくWilcoWeezerあたりと比較する人が多いのはうなづける。ザ・UKオルタナという印象のアレンジではありつつ、現代的で綺麗なミックスだし聴いていて変にあてられるところがない(オルタナ、好きだけどたまに聴いていてえらく疲れることがあるので)。来日公演とかあれば絶対に行きたい。O-EASTあたりで観たい。

 

●Live

2/12 Meshell Ndegeocello @Billboard Live東京

 昨年、アルバム「The Omnichord Real Book」をリリースしたMeshell。個人的にMeshellについてはベーシストとして認識していたが、この日はベースを持たない曲も多く、コンポーザー、或いはシンガーとしての側面が前に出ていた。全体にドリーミーな雰囲気に包まれたライヴだったが、テクニックでオーディエンスを惹き込む場面もありカッコよかった。音楽に対するこの多角的なアプローチと見せ方が、Meshellの大きな魅力なのだろう。

 

2/17 Humanity #6 @下北沢LIVEHAUS

ライヴ当日の利益分を全額、ガザ侵攻で被害を受けた人々のサポートに充てるドネーションイベント。出演はmei ehara、Nobuki Akiyama(DYGL)、DJにMaika Loubté。演奏はもちろんのこと、秋山さんや江原さんの「言葉」を聞くライヴになった。パレスチナでのできごとに目を向けながら、東京で音楽を奏でること、踊ることの意味は何か? 考えられることはいろいろある。チャリティグッズも、まだ持っていないものをいくつか持ち帰らせてもらった。

 

出演したライヴは今月も2回。

2回とも生活の設計でサポートベース、2/10@鶴舞 K.D.Japónと2/18@下北沢BASEMENT BAR。一緒に演奏した、アンド会場でお会いできたすべての皆さま、ありがとうございました。