2023 Apr. Record & Live

 4月は突発的なものも含め、結構ライヴを観られた。

 レコードはときどき昔を思い出しつつ。

 

●新譜(2023〜)

NEVER ENOUGH - Daniel Caesar

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・ゴスペルからの影響はいろいろなところで書かれているけれど、#1「Ocho Rios」からさっそくゴスペル風のコーラスが聴ける。勝手に打ち込みライクな音楽を想像していたのだが、むしろアコースティックなサウンドのなかにアフリカン・アメリカンの音楽性を落とし込んでいて、好きな系統だった(打ち込みが嫌いなわけでは全然ないけど)。

 キーボードやギター等の上物のサウンドもベーシックな雰囲気のものが多く、こう言ってよければある種の安心感がある。先述のような豊かなコーラスのほか、アルバム全体を通して大らかなメロディラインが多く、そこに祈りを思わせる(自分の読解が間違いでなければ、その多くはポジティヴな)リリックが乗っていて、ふだん比較的シリアスな音楽を聴きがちな自分にとっては気分の切り替えにもなった。

 #6「Always」、Serpentwithfeetとの楽曲#8「Disillusioned」も好き。彼もフジに来るので楽しみです。

 

 

With A Hammer - Yaeji

・イェジ、と読むらしい。韓国にルーツをもちアメリカで活動しているソングライター・DJで、最近になって知った矢先に新譜が出た。

 トラックがとにかくかっこいい。ブレイクコア風のハイテンポな曲もあるにはあるが、全体的に大きな波のテンポの中にダイナミズムを作り出していく曲が多い印象。ライヴで聴いたら、たぶん1・3拍に合わせてゆーらゆーら揺れたくなると思う。

 ヴォーカルスタイルは基本ロートーンで冷静な雰囲気の歌唱に加えてどこか詰め寄るような部分もあり、メロ部分とラップ部分のスムーズな入れ替わりと併せ、楽曲に適度な緊張感をもたせているように聞こえる。#7「Done (Let’s Get It)」、#10「Away X5」が今のところ好きなナンバー。

 

 

10,000 gecs - 100 gecs

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・手近にある楽器とツール全部使ったんかってぐらい、多彩なサウンドが27分のなかに詰まっていてなんだかハイテンションなアルバムだった。とはいえ、根底にあるのはオルタナ・ギターロックなんだろうなという印象がある。#3「Hollywood Baby」のリフなんかパンクスプリングで聞こえてきても違和感ない。ちょいちょい音割れてんじゃねーかってぐらい音圧が高いのも面白いミックス。

 個人的には#5「Doritos & Fritos」のブリブリしたベースとスカコア風のサビの応酬が好き。調性感が希薄なヴァース部分で、ふとmassacreあたりのポストロックを思いだす。#9「I Got My Tooth Removed」もスカっぽくてハイな曲なのだが、2分以降で入ってくる歌い上げのパートで急にいいメロをぶっ込んでくるので油断できない。

 

 

Good Riddance - Gracie Abrams

・「スター・トレック」、「スター・ウォーズ」シリーズで監督を務めたJ.J.エイブラムスの長女で、ぶっちゃけ全然知らなかったのだが、今年デビュー・アルバムが出たということで聴いてみたら好きだった。ウィスパーボイスとアコースティックなバンドサウンドの組み合わせ、という時点で嫌いなわけはないのだけれど、繰り返しや押韻を多用したリリックも頭に残る(#1「Best」、#4「Where do we go now?」など)。もちろん慣用句やスラングの類は要所要所に入っているのだろうけれど、ベーシックな英語が多く、情景もなんとなく思い浮かべやすい。

 ものすごいチャレンジングな表現とか音像があるわけではないけれど、その辺はこれから出てくるのだろうし、どの曲も聴きやすく、アルバムとしてアンバランスな部分がなかった。来日公演とかあれば行ってみたい。

 

 

Praise a Lord Who Chews but Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)  - Yves Tumor

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・コーチェラ・フェスでのライヴ中継を観た。他の出演者と一線を画すビザールなルックスと、ある種オールドなものとして定着しているグラムロック的なパフォーマンスが組み合わさって強い印象を受けた。ギタリストがエクスプローラーとファイヤーバードを使っているのもいい。

 iPhoneのスピーカーで聴いてもブリッとした低音が聴き取れる重ためなミックスで、そういった意味でも手応えが強い。

 見た目のインパクトは強いが、コードワークやメロディ自体は奇を衒っているというよりは王道的な側面も大きいと思う。もちろん随所のフレーズや展開自体はアイデアに富んでいるし、エレクトロニカとロックのブレンド具合も絶妙。#2「Lovely Sewer」、#11「Purified by the fire」がフェイバリットトラック。

 

 

the record – boygenius

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・こちらはもう年間ベストに入れたいぐらい好きで、何度も聴いてしまっている。こちらもコーチェラの中継を観ていたのだが、生で見ていたら普通に泣けちゃうだろうなと思う、そんなアクトだった。ギターを弾いて歌う3人が横並びでステージに立つ、その強みを遺憾なく発揮していた。

 Phoebe Bridgers、Julien Baker、Lucy Dacusのそれぞれの個性を出す部分と、3人の方向性がガチッと組み合わさる部分(コーラスしかり)が全編いいバランスで成り立っている。リリックも引力が強く、非英語ネイティヴなりに印象に残っているフレーズが幾つかある(#6「Not Strong Enough」の歌い出し、 “Black hole opened in the kitchen”など。この曲はMV含めて本当に好き。2回目のヴァースはJulienのパートで、リードフレーズを指板ノールックで弾きながら歌っていてビビった。たまにこれやる人いるけど)。#9「Satanist」のように、直線的なリズムにベタっとしたヴォーカルが乗った感じも好き。

 

 

季節のつかまえ方 - 生活の設計

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・Bluemsからバンド名が変更になり、アルバムが出るよ出るよ、との情報を見てから長らく楽しみにしていた。

 大変今更ながら「喫茶ロック」というワードをきちんと掴み切れていないところが未だにあるのだが、そうした前提をいったん置かせていただくにしても、一聴して「いい……」と思える楽曲が揃っている。解像度の高いバッキングのサウンドとリズム、豊かなコーラス、そして歌メロのよさ、たしかにこれはコーヒーが欲しいかも。

 もともと個人的にテンションノートが綺麗に鳴っている音楽が好きで、#2「昼に起きれば」などは(また他のアーティストの名前を出す、という野暮なことをしてしまうけれど)兄弟時代のキリンジにも通じる雰囲気を感じた。

 ライヴで以前から何度か聴いていて好きだった#3「ありふれた銀河」が音源になっているのが嬉しい。#7「春にして君を離れ」の「ただキレイなだけの春を待つ」というリリックもとても好き。

 

 

 

●新譜以外(〜2022)

 Sprained Ankle - Julien Baker

・ドロップDの柔らかな響きから始まるJulien Bakerのソロ作。Julienのシンガーとしての魅力もさることながら、ギタリストとしての魅力も十二分に詰まった作品。

 普通にものすごく当たり前なことを言ってしまうが、この人はギターが上手い。それは単にフレーズが正確に弾けるとか音の粒が揃っているとかいうだけの話ではなく、楽曲に最適なアレンジを考え、それをギターという楽器で表現するという技術まで含めて、です。#2 「Sprained Ankle」の、全編にハーモニクスを入れたサウンドや、#5「Good News」の敢えてのエレキ1本での弾き語りなどにそうしたセンスが溢れていると思う(「Good News」の金属的でどこか無表情なバッキングが本当によくて、これがアコギの弾き語りだったら全く違う印象になっていただろう)。

 

 

Egberto Gismonti - Egberto Gismonti

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・ブラジル音楽・セルフタイトル名盤シリーズ(勝手に命名)。Egberto Gismontiはさまざまな楽器を自ら演奏してレコーディングやライヴをこなす所謂「マルチプレイヤー」だが、やはりギターの演奏が圧倒的にカッコいいなと#1「Salvador」を聴いて思う。ただコードをジャキーンと鳴らしているだけのパートですらカッコいい。裏で鳴っているリズム・セクションと(もちろん意図的にだと思うが)拍をずらしたり、ちょっと遅れてフレーズインしたりしている瞬間にも不安になることがない。恐ろしいスキル。

 #2「Tributo A Wes Montgomery」も大好きな曲。この曲はシンプルにメロディーと展開がどハマりした。若干過剰に感傷的に聞こえなくもないストリングスが結果いい味を出している気がする。

 この人はかつてナナ・バスコンセロスと共に練馬にライヴしにきたことがあるらしい。また来てくれんかな。

 

 

A Ghost Is Born – Wilco

・今年に入ってから、多くのミュージシャンに関するさまざまなニュースが入ってきているが、TMGEThe Birthdayファンとしてはチバユウスケ氏のがん療養について心配せずにはおれない。どうかご回復を。

 そんなチバ氏がフェイバリットに挙げているという本作。フォーク風の素朴な音作りの中にテクニカルなベースフレーズを仕込んできたり(#6「Handshake Drugs」など)、歪んだギターをねじ込んできたりという「オルタナ感」は唯一無二と思う。全体的に前方にぐいぐいっと進んでいくようなリズムを感じるが、長尺の#11「Less Than You Think」のような曲も不思議な魅力を持っている。歌詞は(他のアルバムもそうなのだが)結構読解が難しく、英語修行が必要そう……。

 

 

orbital period - BUMP OF CHICKEN

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バンプは実は学生時代にそこまでハマりきらず、きちんと聴いてこなかったバンドのひとつ。しかし、比較的好きだった本作「orbital period」を久々に聴いて「かっけ〜!!!」となったので、また少しずつ聴いていこうと思う。

 いうまでもなく大人気バンドと言っていいと思うけど、1曲1曲を聴いていくとすごく攻めたことをやっていて面白い。「長いイントロとギターソロは飛ばされる」と言われて久しいが、#2「星の鳥」〜「メーデー」のイントロはめちゃくちゃ長い。#4「才悩人応援歌」の入りは数多くの軽音部員の練習スケジュールを狂わせただろう。それでもアルバム全体としてはひとつの世界を崩していないのがすごい。タイアップ曲の#14 「カルマ」も全然浮いていない。

 

 

POPGATO - 煮ル果実

・兼ねてより愛聴させていただいている「ずっと真夜中でいいのに。」だが、その幾つかの楽曲でアレンジャーとしてクレジットされているボカロPの方。ボカロのアルバムも今まで通して聴いたことがあまりなかったのでしっかり聴いてみることに。

 まず普通に「ギターうま」と思った。手数の多さはある意味ボカロのイメージに通じる部分だったが、そもそも上手くないと成立しない話である。ボカロPというとPCに向かってMIDI鍵盤を叩いているイメージがあったが、楽器そのものが好きで長く練習してきた人が普通に多いのだろう。偏見でした、反省。

 #2「アランダーノ」の疾走感、続く#3「サルバドール」のテクいメロディ運びが好き。

 

 

 

●Live

4/16 “Petrolz is in the air – spring again - ” @KT Zepp Yokohama

 先月も同じタイトルのライヴ観てなかったか? 観ていました。チケットがこっちも取れてしまったのである。今回の会場はKT Zepp Yokohama、1月に君島大空合奏形態を観たハコだ。だから音の良さや構造はある程度わかっており、楽しみにしてきた。まあ流石にツアーということでセトリは前回のライヴと近いものだが、そうとて同じ曲でも2回聴くと細かな違いがあったり、1回目には気づかなかったポイントがあったりして面白い。それはやはりライヴの醍醐味だろう。やはり「とまれみよ」最高。心なしかボブさんのドラムがクリアーに、分離よく聴けた感がある。

 しかし、このライヴは止むを得ず途中退出した。残り3分の1ぐらい残っていただろうか。出るときにスタッフさんに「あ、お帰りですか?」と訊かれた。そりゃそうである。

 

4/16 “Algernon Cadwallader JAPAN TOUR 2023” @八王子RIPS

 ライヴ半ばにしてKT Zepp Yokohamaを呼び出した私は、みなとみらい線東横線を経由して横浜線に飛び乗り、八王子へ向かった。Algernon Cadwalladerの来日を目撃するためにである。大学時代の一時期にエモやポスコアを聴いていたときに何度か触れていた名前だったので、来日の報を目撃してからちょっと悩んだ末チケットをとった。RIPSは初めてのハコだった。

 対バンのPENS +、malegoat含め素晴らしいアクトだった。普段あまり触れないっちゃ触れないジャンルなのできちんと理解できていない部分も多いと思うのだが、高度なテクニックと瞬発的な熱量の発破の両立というポイントにおいて、これだけ高水準のことをやり遂げている人たちもなかなかいないと思う(どっちか犠牲になりそうなものじゃないですか)。そしてAlgernon Cadwalladerは日本にも多くのフォロワーがいることも納得できるキャッチーさと技量の高さを実感でき、本当に観られてよかった。非常に真摯な演奏だったとも感じる。

 

4/17 “開花-KAIHO-“ @下北沢THREE

・新譜を発表した生活の設計、バンド形態では初ライヴということでTHREEまで観に。前後の予定の関係で全バンドは見られなかったが、ひとつ前のShanghai Shy Orchestraも観た。

 Shanghai Shy Orchestraは元々京都を拠点としているバンドで、現在は東京で仕事をしているメンバーもいるためうまいことスケジュールを調整して活動しているらしい。ギター、ベース、ドラムにTrp&Vo.という編成で、バンド名から想起されるオリエンタルな楽曲もありつつポストロック然としたノイジーなナンバーもあり、カラフルな音像が楽しい。今どき地域性と音楽性とをつなげて考えるのは野暮なのかなとも思う一方、やはり京都のインディーズバンドは関東とは違ったベクトルの面白さ・自由さがあると感じる。

 生活の設計。音源では鍵盤や管楽器を交えたサウンドに仕上げている楽曲も多いなか、今回のライヴは(今までどおり)スリーピース体制での演奏。この日はギリギリアルバムリリース前だったので、先行曲を数曲聴いた状態で観たが、その数曲でも音源とライヴとの見せ方(聴かせ方、というべきか)の違いのようなものが見えて楽しかった。それも元々の曲のよさ(歌メロとリズム、バッキングのバランスとか……)と、作り込みの精緻さの為せる技だよな、とも思う。5月・6月にまたそれぞれ異なった体制でのライヴが観られるということで、今から楽しみにしている。

 

4/21 “Worldplay vol.133 冬にわかれて×mei ehara” @渋谷La. Mama

・冬にわかれて、mei eharaさんとも今年2回目のライヴ。大好きかよって感じだが、大好きです。

 いずれもバンドスタイルでの演奏だったので、双方のバンドとしての違いがよくわかり、興味深かった。mei eharaバンドは各パートが其々のカラーを出しながらも、総体としてカチッとまとまっている気持ちよさがある。冬にわかれては、前も書いた気がするが絶妙なバランス感覚の上にたった響き合いの技が楽しい。素人の一リスナーが言うまでもないことだが、熟練した弾き手が揃っていなければ不可能なスタイルだろう。

 meiさんの楽曲は淡々としているようでいて芯に熱量のある感じが好きである。裏拍に重心の乗ったリズムも心地よい。「ゲームオーバー」、1月にも聴いたがやはりよい。

 冬にわかれて。もともと寺尾さんのヴォーカルに惹かれて聴きはじめたバンドだが、お三方とも唯一無二の個性をお持ちだと思う。このバンドの楽曲がこのバンドで演奏される必然性というものが、きちんとあるグループだと感じる。

 

4/22 君島大空 独創遠征春編“箱の歩き方” @文化フォーラム春日井・ギャラリー

・君島さんの弾き語りは昨年に京都文化博物館で聴いて以来。というか前回に引き続いて遠征である(ツアーの特性上そうなるのだけど。楽しいのでいいのである)。

 1月に出た大名盤の曲々が弾き語りで聴けるのが楽しみでしかたがなかった。「扉の夏」「世界はここで回るよ」、音源と違う質感でよかったな。あと、昨年夏の時点でリリースされていたけれど、京都では演奏されなかった「19℃」の独奏Ver.もアンコールで聴けた。感謝。

 もうひとつ嬉しかったのが、寺尾紗穂さんのカヴァーで「愛よ届け」。原曲もとても好きなのでその時点で既に嬉しいのだが、実はこの日、会場に向かう前によった本屋さんでたまたまこの曲がかかっていたのだった。それでお店の方とも「寺尾さんいいですよね……」となった後だったので、驚きもあり、二重に嬉しかった。春日井ラヴ。