朝ドアを開けると、視界の端に"あるもの"が映った。うわ、と思った。
その"あるもの"は、色は赤黒く、大きさは大振りのたらい程度で、何やらこんもりと盛り上がっている。もしかしたらアレだろうか、アレだとしたら久しぶりだ。やだなぁ。
"あるもの"とかアレとか指示代名詞ばかりであれだが、僕が予想していたソレは何を隠そう、「車に轢かれた動物」のことである。
東京に出てくる前は北関東の郊外エリアに住んでいた。国民1人当たりの自動車保有台数トップスリーは「群馬・栃木・茨城」の北関東三県らしいが、その地域も例に漏れない。加えて運転マナーがだいぶ穏やかでなかった。それでノラ猫、狸、ハクビシンあたり、まあだいたい猫が煽りをくって道端に、というのはそう珍しい景色ではなかった。
珍しくないからといって慣れるものでもない。学校に向かう途中うっかり見かけてしまった日など、暫くテンションが低かった。
話を今朝に戻す。
"あるもの"地点を経由しないことには出かけられないので渋々近づいてみる。果たして、それはひと所にまとめられた「花」だった。真っ赤なツバキの花である。なるほどね。
そういえば、近くのアパートに咲いていたツバキの終わった花が、ゴロンゴロン道に落ちていた。邪魔といえば邪魔だから大家さんが誰かがまとめておいたのだろう。なあんだ。
帰り道に同じ場所を通ると既に"あるもの"はどこかへ片付けられていた。ああいうのってどうやって捨てるんだろう。普通にゴミ袋に詰めるんだろうか。