【第3版】救済

「ごめんね、さっき送ってもらった件なんだけど『大変助かります』っていう書き方はあんまり他所とか目上の人にはしないようにしようか」

取引先へのメールを送って15分ほどしたのち、そのメールでCCに入れていた上司からそんな指摘を受ける。

「ああ……。はい、気をつけます」

「まあ一概にダメとも言い切れないけどね。とはいえ、ちょっと上からに見えなくもないじゃない? そこは一応気にする人に合わせた方が安全ってことで」

「わかりました。でも『助かった』旨、伝えたいときもありませんか?」

「まあそういうときはさ、『〇〇していただき幸いに存じます』とかそういう感じでいんじゃない」

そこでふと、ネットの一部界隈で頻用されているらしい「〇〇たすかる」というネットミームが頭をよぎる。

こう、動画かなんかを観ていて、自分の好きなコンテンツが流れたりとか、それが性癖にマッチするようなタイミングがあったりしたときに、「たすかる」ってコメントするんだと。
※付け加えると、「ちょうど切らしてた」っていうコメントとセットになることが多いんだと。

仮にも自分の好みのコンテンツに対する扱いが、そんな台所のショウユのような温度感でよいのか、という疑義を挟みたいところではある。
一方で、程よく肩の力が抜けていて悪くない表現だな、とも思う。

さらにふと、今この瞬間どこかでたすかったオタクがいるならば、その陰でたすからなかったオタクがいるのだろうな、という想いが頭をよぎる。


(たすからなかったオタク、という字面の痛ましさ)


もう少し打ち明けるならば、次いで私の脳裡には「落胆のあまり粉々に砕け散り、ネットの宇宙をキラキラ光る欠片となって漂うオタク」の表象が描き出される。
たすからなかったオタクたちの欠片を丁寧に拾い集め、形にし、再び海に放ってやるための言語。Pythonと抱擁を交わし、AWSと手を繋いで書き認める文について。

 



あ、定時。

「中央線止まってるくさいね」
「マジか、だる」


※本原稿は『下町のナポレオン・ダイナマイト』2021年6月19日更新分にて青羽茉莉名義で掲載されたものに若干の加筆・修正を施したものです。

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