今年に入ってから頑張ってこれ↑記録し続けているが、ちょっと無理が出てきた。
一応普通にサラリーマンをやっていて、時期によっちゃ忙しくなくもないので、その月触れたものをコンスタントにじっくり記録する時間がとりづらい。こともある。
なので毎月という縛りは緩めにして、ついでに取り上げるものももう少し絞って、という感じでやっていく。まあ主にみるのは自分だから、自分でわかっていればOK。
(などと言いつつ、ブログ見てくださっている人がちゃんといらっしゃるということは折に触れて聞いております。恐れ多いぜ。拙文というか乱文というかですが、本当にありがとうございます)。
1.BOOKS
●吉田修一『泣きたくなるような青空』
見る人が見れば、すぐにThe Beatlesの「Because」のイントロが脳内再生されそうなタイトルが素敵である。タイトルの引きって本当に大切だよなあ、と思う。
今はゴリゴリにコロナ禍で、あらゆる人にとって縁遠いものになってしまった旅行というアクティビティ(特に海外旅行は……)。僕はもともとインドアなほうだから比較的ダメージが少ないのだが、だからといっていつまでも東京から出られないというのは切ないものがある。
この本のような旅行記を読むことがせめてもの救いだろうか。人によっては、却って旅することへの欲望がかき立てられてしんどいかしらね。
本書は読みやすいし、1つひとつのエピソードもしっかり練られていて(小説家の文章ですものね)、ぜひ手元に置いておきたい1冊。
●ジャン=リュック・ナンシー著,西宮かおり訳『思考の取引』
この本は、大学を卒業する少し前に六本木の『文喫』*1で買ったと記憶している。
買うとき、自分とそう歳の変わらなさそうな店員さんが「僕もこの本すごく好きなんです。ぜひ楽しんでくださいね」と声をかけてくれ、早速帰宅して読みはじめたのだが、何のこっちゃわからなかった。
彼はこんなに難解な書物について笑顔で「すごく好きなんです」と言っていたのか、どんだけ読解力が高いんだ……と、(今思えば結構失礼な感想を抱きながら)軽くショックを受けた。
この本は仕事をするようになってから読み返して、ようやく言わんとしているところがわかるようになってきた。
そのためにも、書物を開かねばならない。開きと閉じとのこの戯れを、揺さぶらねばならない。この戯れのおかげで、主体たる書物は、その真の力をようやくその手につかむのだから。そう、読まれる対象となることで。(p.59)
本は読まれないことには仕方あるめえ、というのは商売的にもそうだし、何となく編み手として仕事をしていくなかでより手触りのある表現として迫ってきた印象がある。
この本は、また数か月、数年経ってから読み返すことになると思う。
●イ・ラン『悲しくてかっこいい人』
これもタイトルが良い。原題は「いったい何をして生きている人間かと(대체뭐하자는인간이지싶었다)」だそうで、これはこれでなるほどという感じだけど、翻訳の題が個人的にはかなりツボだ。
著者はシンガーソングライターだったりイラストレーターだったり、いわゆるマルチクリエイター(僕はこの言い方、あまり好きではないのだけれど……)的な立ち位置の人っぽい。
が、殊に言葉の並べ方においてその魅力が際立っているように思う。味気なくなく、かといって虚飾もなく。そして狙って出せるものではない色気のようなものが行間にフヨフヨと漂っている感じがある。
茨木のり子というと、『わたしが一番きれいだったとき』が一番有名だろうか。小学校か中学校のとき、国語の授業で教わった記憶がある。中学校の授業はあまり真面目に聞いていなかったから、小学校かな。
いつかきちんと詩集を読みたいと思っていてずっとそのままだったのだが、月の末に少し時間が取れたのでじっくり読んだ。
わりに状況説明的な表現も多く、具体的なシーンを想像しやすいのだが、そのなかに人々が普遍的にもっている感情・感覚の描写が巧妙に練り込まれていて、そこに気づいたときの感動が大きい。
ひらがなと漢字のバランスも絶妙で心地よい。
人に伝えようとすれば
あまりに平凡すぎて
けっして伝わってはゆかないだろう
その人の気圧のなかでしか
生きられぬ言葉もある
「言いたくない言葉」(pp.142-143)
2.COMICS
知っている人は知っている名作、みたいな感じで何度かタイトルを聞いたことがあったので、TSUTAYAで借りて読みはじめた。
魔法が出てくるダークファンタジー。まだよく掴み切れていないが、ダークファンタジー好きなので期待しつつもうちょっと進めてみます。
『チェンソーマン』が大好きなので、藤本先生の他の作品も読んどかねえとね、というテンションで買ってきた。
面白いです普通に。チェほどの情報量の暴力ではない。で、チェより絵が綺麗な気がする……。
●藤子・F・不二雄『パラレル同窓会』
前も書いたような気がするけど、藤子Fの本領はこういうダークなSFでありブラックジョークだったと聞く。
ドラえもんやパーマンも多くの人に愛されていたし、藤子F自身も愛していただろうけど、そんな作品たちと同じ絵柄で描かれる大人向けの作品ももっと知られて良い気がするな。
3.MUSIC
●GRAPEVINE - 新しい果実
#2「目覚ましはいつも鳴りやまない」のスタイリッシュなリズムと、遊び心マシマシのコード進行の合わせ技。3分49秒ずっとワクワクしていられる。
先行シングルの#3「Gifted」の浮遊感もクセになるし、#5「ぬばたま」の久石譲的ピアノもこれからの季節に聴きたい雰囲気。
GRAPEVINEの魅力は何よりメロディの良さだと思っていたけれど、改めて聴くとリズムとかインストの使い方も凝りに凝っていて、聴くほどに味わいが深くなっていくバンドだと思います。
●あいみょん - 愛を知るまでは/桜が降る夜は
あいみょんさん、きちんと聴いたのちょっと久しぶりかも。というのも#3「ミニスカートとハイライト」のインストを、大好きなミツメが担当しているんですね。
ぶっちゃけそれが一番の理由ではある()
大竹さんのギター、こういう立ち上がりのパキッとした高い声にも合うんだなあ。
●Steely Dan - Gaucho
最近、家ではSteely Danをよくかけている。単純に気分で、作業中とかにかけとくと何だか捗る。
Gauchoは制作にめちゃくちゃカネがかかっていて、ついでに色んな権利問題やらアクシデントで揉めに揉めたアルバムらしい。でもどの曲も綺麗でカッコよくまとまっていますよね。
#3 Glamour Professionのイントロの上モノのオブリが大好き。その後のドナルド・フェイゲンのソロ「The Nightfly」に通じる音像が既に確立されているよね。
●KIRINJI - 3
星野源さん、ご結婚おめでとうございます。
本作収録の「車と女」という曲はおげんさんの「恋」の元ネタです。と言われています。
●black midi - Cavalcade
こわ、何だこのアルバム っていうのが最初聴いたときの感想でした。ここ数週間はもう全部このアルバムに持っていかれてしまっている。
black midiは2019年に出た1stアルバムもだいぶ面白かったけど、 今作で面白さ大加速してる。
だいたい、1曲目から色んな音楽混ぜすぎでは? ストリングスの感じ完全にバルトーク *2だろ。
と思っていたら、マジで影響を受けているくさい。バルトークとポストロックの融合は流石に初めての体験だ。
じつは9月にあるblack midi来日公演観てくる予定なので、またそこでなんか書くかも。
4.FILMS etc.
読書家の話が観れるかな、と思ったらちょっと違っていて、アメリカの希少本オタクの話だった(「セラーズ」ってんだからそうだわな)。
読み物としてよりはフェティッシュとしての書物の側面が強調されている感じで、ちょーっと置いてきぼり感があって退屈だったかも。
とはいえ、本がフェティッシュになってしまう感じがややわかってしまう、危ない危ない。僕も「お、この本はモノで持ってたいな」なんて言ってすぐに買ってしまうので。
☆最近覚えたこと・言葉☆
・自宅アパートの前に咲いている花は「リノリウム」ではなく「ゼラニウム」
5月分おしまい。
*1:入場料を払って入店する、ちょっと変わった仕組みの書店。入店してしまえば、立ち読みしようが座り読みしようが自由というスタイルで人気を博している。過ごし方という面で見れば図書館に似ていなくもないが、気に入った本があればもちろん買える
*2:ハンガリーの音楽家。小さい頃にピアノ習ってたよ、って人は名前ぐらいは聞いたことあるかも。伝統的なクラシック音楽の演奏家としてバッハなんかを研究した一方で、自身のルーツである東ヨーロッパの民族音楽のエッセンスを、自作品にガンガン取り入れていった。彼の作品はそれ以前の「クラシック音楽」のルールを外れた難解なものも多いけれど、それでいてオリエンタルでエネルギッシュな魅力に溢れてもいる。