2024年11月 Records & Lives

 11月。今年いちばんドタバタしていたというか、やることがすごく多かった気がする。のわりにはライヴに出たり観たりもかなりしていた。ありがたいことである。アルバムは枚数はそんなに聴けなかったけれど、それでも新しくおもしろい音楽に多く出会えたような気がする。

 

●Records

Evergreen - Soccer Mommy

 米・ナッシュビル出身のミュージシャンSophie Allisonによるソロ・プロジェクトの4thアルバム。4枚目にして”Evergreen”というタイトルなのが、作品に込められた想いをストレートに表現していていい。

 もともと好きだった音楽家だが、本作のようなよりオーガニックで生感・バンド感のあるサウンドはダイレクトに感情を持っていかれる。キック・ハット・スネアの3点がどっしり聴けるミックスもよい。

 ストリングスが効果的にフィーチャーされたインディーフォーク調の#1「Lost」、グランジライクな歪みギターが気持ち良い#3「Driver」あたりが前半の個人的ハイライト。中盤以降は#6「Abigail」〜#7「Thinking Of You」の流れと、ラストトラック#10「Evergreen」が良かった。特に#6「Abigail」はアルバム全体を通しても一番好きな曲で、クリーンギターのアルペジオとシンセの音、ブリッジのコード進行の組み合わせが一種のノスタルジーすら感じさせる。シンプルかつコンパクトな構成ながら間違いなく名曲。

 

Night Palace - Mount Eerie

 正直全然知らなかったアーティストである。母音接続を忌避する傾向が強い英語では見慣れない「eerie」という単語は「不気味」という意味を持つらしい。バンドというか、これもPhil Elverumという作曲家のソロ・プロジェクトであるらしい。

 一聴して、言葉を選ばずに言えば「変なアルバムだ!!」と思った。ドローンと雅楽が手を組んだようなアンビエント風表題曲#1「Night Palace」に始まり、#2「Huge Fire」では突如バンドサウンドに。この曲はいわゆるポストロックといった感じなのだが、#3「Breaths」で再びアンビエント調になったかと思えば#4「Swallowed Alive」はもはやハードコアである。こんな感じでジャンル・テンポを変幻自在に往来しつつ、1時間半近くも独特の音楽世界をリスナーに提示する(今どき珍しい長さである)。

 聞き手を選ぶアルバムだとは思うけれど、#12「Blurred World」とか#13「I Heard Whales(I Think)」らへんの中盤の美メロラッシュは癖になりそうだし、音作りはあくまで緻密なのが面白い。

 

Gira - Momo.

 私がこのところ多大なリスペクトを感じてやまないブラジルの音楽だが、本作もブラジル出身のミュージシャンによるもの。ちなみにトリプルファイヤーの鳥居さんがインスタか何かで紹介しているのを見て知った。

 やはりというべきか、非常にツボにハマる、大好きなアルバムだった。#3「Passo De Avandar」のテクニカルなのだけれどどこかとぼけたギターのフレーズ。続けて聴いているうちにトリップしそうな気分にすらなる。#5「Jão」はブラジル音楽特有の「トッツトトッツト」というリズムパターンに朗々としたヴォーカルが乗り、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルら往年の大家の諸作品も思わせる(現代的なサウンドも取り入れつつ、伝統的なブラジル音楽の系譜をしっかりカヴァーしているのもこのアルバムの魅力である)。

 最後の曲#10「Gira」の「パーティの終わり」感も、楽しくも切なくて好き。全体的にパーカッションがサウンドを引っ張っていてカッコよかった。

 

Two Star & The Dream Police - Mk. gee

 本名をMichael Todd Gordonというアメリカのアーティストで、1996年生まれ(同い年だ)で2017年デビュー。しかしフルアルバムは今作が初めてとのこと。

 ローファイな音質で、かつ(珍しいことでもないけれど)比較的ジャンルレスで伸び伸びとしたソングライティングがなんとも親しみやすく、肩肘を張らず聴ける感覚がある。1曲ずつがすっきりと短く、アルバム全体も33分とコンパクトなのが今風な感じがある。一方でサウンド自体は繊細というか、結構細かいことをやっている印象。#5「You got it」は詩を呟くようなヴォーカルの裏でゆらゆら動き続けるギターが印象的だし、#8「I Want」ではかなりトラック数を使ってシンセや管楽器系の音を入れている。

 ジャケ写もアー写もギターを持っているものが多いので、おそらくはマルチに楽器を弾ける人だろうけれど根幹にはギタリストとしての矜持があるのだろう。たしかになんだかんだで「ギターがカッコいい」アルバムでもあった。

 

Jouer – Annarella and Django

 不思議なアルバムに出会った。スウェーデン音楽学者でフルーティストでもあるAnnarellaがセネガルにフィールドワークに訪れたことがきっかけで生まれたアルバムだそう。全体にわたってフィーチャーされている撥弦楽器は西アフリカの楽器・ンゴニ。じつは自分の身近にもンゴニのプレイヤーがいるのでたまたまその名前を知っていたのだが、こういう形で出会うことになるとはわからないものである。

 前半は#2「Aduna Ak Asaman」〜#4「Nore More」が流れを作っていき、西洋音楽のリズム・ピッチの束縛を離れたトライバルな楽曲が聴ける。だんだんと鍵盤などが入ってきて、中盤〜後半は結構ポップな曲も多い。#8「Megaphone」などはタイトなドラムが入った、しっかり踊れる四拍子の曲だ。逆に言えば、そういう楽曲ですら舞台にしてしまうンゴニという楽器の奥深さ、面白さが表れているのかもしれない。フルートもあまり派手なプレイをかまさずに楽曲に色を添えているのが逆に良い。

 

Guided Tour - High Vis

 英国のパンク(ということになっている)バンド、High Vis。原宿のレコード店BIG LOVE RECORDSの公式HPに載っていた紹介文が面白すぎたので一旦引用します。

「ハードコア進化系からOASISばりインディ〜トレインスポッティング青春及び履き違えたヤンキーイズムの優しさを武器にオリジナルをついに確立した…」

 でも本当に的を射た紹介だと思う。UKらしくほんのちょっと皮肉めいた美メロとやさしい(易しいと優しいのダブルミーニング)進行で、基本的にキャッチーなんだけれど、ときどき我慢できずにギターのフィードバックノイズを出してしまったり(#2「Drop Me Out」)、バキバキに歪ませてしまったり(#4「Feeling Bless」)しまうところにハードコアの心を感じる。ベースも基本的にピックでゴリゴリ鳴らすスタイルのよう。それでいて#10「Mind’s a Lie」のようなダンサブルでクール寄りの楽曲も出してくるので油断できない。この曲は叫ぶようなメインヴォーカルに絡む女声ヴォーカルも印象的。

 

Songs Of A Lost World - The Cure

 The Cureは、存在はもちろん知っているけれど熱心に追ってきたバンドではなく、なんなら「Boys Don’t Cry」あの1曲のイメージに引っ張られたままここまで来た感がある。

 そんな状態で本作を聴いたので、ちょっと驚いた。陳腐な表現かもしれないが、アルバムタイトルとも相俟ってまるで映画のサウンドトラックのような印象を受ける。#1「Alone」、#3「A Fragile Thing」、#4「Warsong」と、世相を反映してかせずか、決して明るい歌たちではないことが楽曲タイトルだけ見ても伝わる。

 ピアノやシンセ、サンプリングをふんだんに使った壮大な音像はバンドというよりもむしろオーケストラのような質感さえ覚える。全体的にインストゥルメンタルのパートが多く、曲によってはヴォーカルはほとんど出てこない(ロバート・スミスのあの独特の歌声は、コレまたびっくりするくらい健在だけれど)。

 日常をともにするようなアルバムではないけれど、ときどき妙に聴きたくなる未来も見える。

 

Rong Weickness - Fievel Is Glauque

 ニューヨーカーのマルチ・インストゥルメンタリストにしてプロデューサーのZach Phillipsと、ブリュッセル出身のシンガーMa Clémentのデュオ。初めて聴いたけれど、シンプルにすごく好きだった。

 #1「Hover」から既におもしろい。親しみやすいメロディから入ったかと思えば後半で急にジャズ化。そのままラテンアメリカの香りが漂う#2「As Above So Below」に駆け込む。この曲はフルートの楽しげなオブリと、やたらテクいフレーズを連発しているベースの絡み合いが癖になる。全編にわたってフルートやサックスがフィーチャーされている場面が多いし、特に鍵盤のコードの使い方からしてジャズのエッセンスが含まれているのは間違いないと思うが、そのうえでかなりジャンルレスでチャレンジングなことをやっているアルバムだと思う。#13「Transparent」なんかはR&Bアシッド・ジャズの雰囲気も感じる。しかしまあベースのずっと賑やかなこと。コピーしろと言われたら、ちょっと嫌かもしれない。笑

 

●Live

11/7 開花-KAIHO-@下北沢THREE

 久しぶりに有給休暇をとってサクサク過ごした。プールに行って700mぐらい泳ぎ、喫茶店で本を読む。ちょっとクサいけれどもそういう日があったほうが間違いなく心の健康にいい。

 開花はキッサ・コッポラとシュガーダンスを観たくて行った。キッサ・コッポラは今一緒に生活の設計でサポートをやっているひろまつ君が(もっと前から)サポートで入っているので名前は知っていたのだけど、ライヴを観るのは地味に今回が初めて。軽やかさと芯の強さを兼ね備えたロックミュージックという感じでとてもよかった。ベースとリードギターのダブルサイドがSGなのもシブくて良い。

 シュガーダンスは6月に御茶ノ水KAKADOで対バン(一応)して以来。その時に聴いてとても好きだった「夜を返せ」という曲が聞けて嬉しかったのと、新曲「片手間の愛」がドンピシャでツボだった。音源化しないかな。

 前半のふせだ音楽俱楽部と既踏峰(きとうほう)もいいバンドだった。また観たい。

 

11/14 品品独演会『改名』の序@下北沢 古書ビビビ

 世田谷ピンポンズ、という名前は漠然と聴いたことがあった。古本屋や編集者のSNSで、その名を散見していた。そして10月のある日。大森のあんず文庫で本を買って珈琲を飲もうとカウンターに座したとき、既に隣に座していたのが世田谷ピンポンズ改め品品(ぴんぽん)氏その人であった。びっくりである。彼はフォークシンガーなのだった(あと、ソロシンガーだった)。

 現在は京都在住、旧名義の示すとおりかつては東京を拠点に活動しており、今も東京でライヴ等々する機会はあるそう。秋にやるライヴの情報をいただいて帰った。そして、都合のついた下北沢のライヴにお邪魔したという流れ。ライヴまで古書店でやるというのはおもしろい。

 肝心の音楽だけれど、普段それほど聴かないフォークというジャンル、ちょっと驚くくらい沁みた。ギター一本・歌声一本の音楽だから、メロディと詩がダイレクトに響くのがいい。宇都宮のショッピングセンターの曲が好きだった。

 

11/15 Only Heaven Knows@東高円寺U.F.O.CLUB

 色々と縁がありながら、まだ行くことができていなかったMerchantのライヴを目撃すべくU.F.O.CLUBへ。2度ほど来たことがあるはずのライヴハウスだけれど、久しぶりに来たらその独特な雰囲気に圧倒される。特に内装と照明がいい。あと今どきフロア全面喫煙可である。上着が燻される燻される。

 チェロを含んだ編成が印象的なオオニシノブヒサ&THE HENGE BANDの途中で入場。フロアとオーディエンスが近い。そしてMerchant、生演奏が強すぎる。文字通りのライヴ感そしてドライヴ感。自由奔放なプレイのように見えて、リズムはあくまでめちゃくちゃタイトである。スリーピースというシンプルな構成ゆえ各パートの魅力がダイレクトに伝わってくるのも堪らぬ(久しぶりにエレキギターという楽器そのものに「かっけ〜」という感情を抱いた)。かつ歌メロも良いときている。これはちょっとすごいバンドだ。

 ラストアクトのAdeel & Rebel with a Causeも往年のグラムロック〜Thriller期のMJを思わせる雰囲気でクールだった。

 

11/21 Slow Base presents “YONDER”@青山 月見ル君想フ

 Glider(つまりMerchantもとい栗田将治さん、そしてサポートベースのInoue Masayaさんは6日ぶり2回目である)を観に行くべく月見ルへ……と息巻いていたものの仕事が長引き、会場に着いたときには既にライヴ中盤であった。

 しかしそれで魅力が減るようなバンドではもちろんない。トラッドなロックのサウンドを芯に、ダンサブルでモダンな要素も煌びやかに纏いながら音世界が作られていく。たぶんだけれどGlider、もう10年近くあるいはもっと前にどこかで観ているはずなんですよね(Gliderのライヴ自体4年ぶりだったらしいのだけれど)。観ていてどこか懐かしい気持ちも覚えたのにはそれも理由にあるかもしれない。

 トリのSlowbaseもいいバンドだった。ラテンアメリカ音楽のエッセンスが感じられたり(リズムでわかる)、かたやアンビエントのような雰囲気のある楽曲もあったり。そんな感じでリファレンスは幅広いのだけれど、とっ散らかっていない、そんな音楽。好きでした。

 

11/22 SANGO ALBUM ONE MAN LIVE@渋谷7th Floor

 今年に出た3rdアルバム『SANGO ALBUM』のレコ発ライヴ。アルバムを聴いたときから絶対ライヴ行こ、と思っていたので、結構早くそれが叶ったのが嬉しい。住環境の変化などもあって宅録という形式にトライした、とMCで仰っていたが、(一方で)ライヴはやはりバンドスタイルでやろうと思ったとのこと。そのバンドメンバーもこんなに近くで観れちゃっていいんですか、と思うような豪華な面々。

 ライヴ本編も楽しく、優しい、心地よい時間だった。音源では人力と電子の絶妙なバランスがサウンドの肝になっていたように思うけれど、そんなアルバムの楽曲群をフルバンドセットで聴くと、当然ながらリズムや音圧の揺らぎ・ダイナミズムがより直截に伝わってきて、また印象が全然変わってくる。

 個人的にはコーラス隊も全員参加した「原色」のライヴVer. がとんでもなくよかった。アルバムではビートが打ち込みのためかどこかひやっとした印象のある曲だったけれど、ライヴではそこに生ドラムの熱量が加わり、気持ちテンポも早目で一気にバイタリティを感じる楽曲に。これはまた聴きたい。

 

11/27 YIN YIN Japan Tour 追加公演@代官山UNIT

 今年のフジロックで一気に虜になった人も多いであろうYIN YIN。友人がチケットを取ってくれ、仕事帰りに観にいくことに。

 ライヴについてはあれこれ言う必要もないだろう。四つ打ちというある種の制約の中で驚くほど多彩な景色を見せてくれる。全曲ノリノリで踊れるのに飽きない。そして改めて思うにキラーチューンの嵐である(「Tokyo Disco」「Takahashi Timing」あたりは当然アガりまくっていた。個人的にはMisirlou風味の「The Perserance of Sano」がいつ聴いてもノリまくれる)。

 そしてコレも当たり前なんだけど演奏が上手い。(要所要所でギターソロがあったりはすれど)基本的にテクニックをガンガン前に出すタイプのバンドではない。けれど、「地味だけど本当に上手くないとできないこと」をちゃんとマスターしたうえで遊びまくっているのがわかるので、ズルい。

 あとはエンターテイナーとしても素晴らしい人々だった。「最近覚えたサウンド」でファミマの入店SEを弾くのは正解すぎる。あれは確かに日本人なら誰でも知っている。

 

 *ライヴ出演は11月13日下北沢Basement Barと11月24日下北沢THREEの2本で、どちらも生活の設計のサポートベース。対バンもみんな良くて、自分の出番以外もずっと楽しいライヴだった。新曲がふたつほど増えたが自分のパートのアレンジが固まっていないので、要練習。