2023 Jan. Record & Live

 一昨年あたりにやろうとしてやめた、マンスリーの記録にまたトライしてみる。多分、月末とかに一気にまとめようとするからしんどくなっちゃうのであって、だから聴いたらなるべくすぐに感想を書いてみるようにした。うん、結構行けそうな気がします。

 今年も無理ない程度に頑張ります。

 

●新譜(2023〜)

Late Developers – Belle and Sebastian

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・昔聴いた印象のままちょっと地味めなインディーフォーク、という印象を抱いていたBelle and Sebastianだけど、昨年出た新譜を聴いてから少し印象が変わっていた。今回の新譜もかなり幅広い音楽ジャンルを積極的に取り入れているっぽくて、いい意味での雑多さが楽しい。と言いつつ、なんだかんだで#2「Give a Little Time」のようなキャッチーなインディー風楽曲がフェイバリットだったりする。ギターとヴォーカルの重ね方とかコーラスの足し方とかもよく聴くと凝っている。

 

Every Loser – Iggy Pop

Iggy Popって今いくつなん、と思って調べたら75歳だった。後期高齢者どころの騒ぎではない、こんなに力強いアルバムを作れる75歳がいるのかと驚く。英語の歌詞を100%理解できる語学力はないが、リリックにプロテスト精神とかオラオラパワーみたいなものもしっかり生きている気がする。「歳をとって丸くなる」という言葉があるけれど彼には永遠に似合わないだろう。もちろんサウンドもちゃんとカッコいい。歪んだギターでまだまだ興奮できる自分に安心する。

 

帶する煙君島大空

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・本作を提げた君島大空のライヴ(合奏形態ワンマンライブツアー「映帶」)をKT Zepp Yokohamaで観た。月並みな表現になるが「音の宝箱」のようだと思った。TOKIONのインタビュー(https://tokion.jp/2020/11/04/ohzora-kimishima-collage/)では彼の音楽性を表すひとつのキーワードとして「コラージュ」という言葉を使っているが、本当にそうだと思う。ジャンル的にも、聴こえ方それ自体においても多種多様な音達が集まっているのに、ひとつの世界として成立している。つついても崩れないが、掴もうとするとするりと抜けていく。そんな不思議な手触り。それでいて、先行シングルでもある#5「19℃」のような温かな叙情も唯一無二。

 

Five Easy Hog Dogs – Mac DeMarco

・歌わんのかい、っていう。全曲インストの新譜。曲タイトルもすべてアメリカやカナダの地名がシンプルについているだけ。なんとなく「移動」をテーマに作られた曲達なのかな、と感じていたら、実際Macが旅をしながらアイデアを貯めて作ったものらしい。#1「Gualala」の揺れるピッチや#4「Portland」のちょっととぼけたようなシンセ・サウンドからはローファイ・ヒップホップのようなチル感も感じられるけれど、それよりはもう少し体温に近い感じがする。なんだかんだでギターって安心感がある。

 

RUSH! – Maneskin

・17曲も入ってるんでちょっと気合がいるけど、しっかりアルバムを通して聴くべきだなと思った1枚。#2「GOSSIP」で資本主義を皮肉りながらギターにトム・モレロを迎えていたりするあたりはロック音楽史をしっかり読み込んでいる感もある。普通にカッコいいアルバムだと思ったが、海外での評価はややイマイチらしい。ふうん。それこそGOSSIPみたいな曲を聴いて、何か言いたくなっちゃうんだろうか。ともあれ個人的には是非ライヴ、それもできたらスタジアムや屋外で観てみたいバンドの1つではある。

 

Drifting – Mette Henriette

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・音で作られた景色を見ているような1枚。紛れもなく人工物である「楽器」から生み出されるサウンドでありながら、それを聴くと何故か森や水、風のような自然物を想起するという現象がときどき起こる。このアルバムでもそれが起こった。なんとなく、ノンビブラートのサックスとミニマルなピアノを聴くとその現象が起こるっぽい。表題曲の#6「Drifting」の文字通りの浮遊感や#12「0°」の寒々とした音像など印象的(もっとも「0°」は「0℃」ではないので、角度の話も含まれるんだろう)。調べたらノルウェーの音楽家で、前のアルバムは2015年だった。というか今回が8年ぶりの2ndらしい。

 

 

●新譜以外(〜2022)

SPARK – Whitney

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・昨年聴き忘れてしまったので追い聴き。ジャケットがすごく綺麗。Apple Musicで再生すると、このジャケットが動画になっていてガラスの板がクルクル回転して可愛らしい。サウンド的にはリズムセクションがヒップホップ風の打ち込みビートになっているのが面白い(本人達ももともとそういう音楽が好きらしい)。ボーカルスタイルやコード運びは結構インディーズギターロックの感じを残しているので、そういうのとも案外合うんだなあという発見あり。あと、テーマとしてはメンバー本人が経験したさまざまな別離がバックグラウンドにあるそう(#11「LOST CONTROL」など)。歌詞も訳して読み解いてみたい。

 

Dream – Elephant Gym

・追い聴きシリーズ。このバンドを昨年のフジロックで観たときは只々その技量に圧倒され放しだったが、じっくりアルバムを聴くとメロディメイカーとして、そしてリスナーとしてそもそも相当レベルが高いことがわかる。ボサノヴァ風の#1「Anima」が好きなのは、単に自分が今ブラジル音楽に興味を持っているからだろうな。サクッと実力派ポストロックとして語られがちだけど、それこそヒップホップだとかラテン音楽だとか、世界中から素材を集めて面白い音楽を作ることを心底楽しんでいる人たちなんだろう。多分あの卓越したテクニックもそれ自体が目的なのではなくて、曲を作っていて必要になったから身につけたとか、そんな感じだと思う。

 

結束バンド – 結束バンド

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・年末から年始にかけてNetflixで『ぼっち・ざ・ろっく!』を観た。アニメをワンクールまるっと観るのはかなり久しぶりだったが、かなり楽しめた。このアルバムをバンドの作品としてみたときに、1stがセルフタイトルというのはなかなかシブくて良い。WeezerWeezer的な。ミーハーだが#12「星座になれたら」のロック×ファンクの融合サウンドが好き。2Bのリードのオブリ、高校生が弾いてたら感動だ。それにしても、主人公が「ギターヒーロー」という謂わばメタル的な入り口でバンドを始めながらも、音楽的には00〜10年代邦ロックに回帰していくのはストーリーとしてもちょっと面白い。

 

Her Loss - Drake & 21 Savage

・これも昨年出ていて話題になっていたが聴けていなかった1枚。Drakeのアルバムは何枚か聴いたことがあったが、21 Savageとのコラボは今回が初聴き。Drakeというとその華やかな交際遍歴のイメージも相まって所謂「芸能人」的な印象を受ける一方、21 Savageの経歴を見ると(Wikipediaだけど)こちらは中々ギャングスタ感が強い。その2人が組んで作るアルバムだからか、音像としては繊細さとラフさが同居した二極性があるような気がする。まだまだ文化としてのヒップホップに詳しくないので本作について踏み込んだことが言えないけど……。

 

吟遊詩人 – ガロ

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・ガロの3人もさることながら、ゲスト/サポート参加しているアーティストがめちゃ豪華なアルバム。ベースのクレジットが細野晴臣/寺尾次郎とのことで、確かにどの曲もベースがメロディアスで面白い(#4 「愚かな遊び」のテクニカルなラインは面白い。重音とハイポジのリフの組み合わせがエグカッコいい)。フォークをルーツとした1970年代のユニットということでやはり学生運動のことなどを考えながら聴いてしまうが、そういう側面では#3「個人的メッセージ」の歌詞などは本当に秀逸だなあと思う(ちなみにこれは阿久悠作詞だそう)。

 

Abysskiss – Adrianne Lenker

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・2018年に発表されている、Big ThiefのヴォーカルAdrianne Lenkerのソロ作。全体を通して本人のヴォーカルとギターだけでサウンドが構成されていて、そういった面でもバンドの作品と差別化がなされているよう。あと、バンドの方の楽曲は比較的ポストロック然としたものが多いというか、ナンバーによっては変拍子や歪んだギターを強調したようなものもあるが、ソロの方はメロディラインや生(き)の歌のよさが前に出ている。人によってはこちらの方が聴きやすいかも。一方でバークリーを出ているだけあってテクニックのレベルも高く、ぱっと聴いてコピーできそうなギターではないのが流石という感じ。#2「from」、#5「cradle」が(Apple Musicでも星ついてるけど)好き。

 

Recomeçar – Tim Bernardes

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・「チン・ベルナルデス」と発音する。坂本慎太郎などともコラボしているブラジルのSSWで、作詞・作曲のほか多くの楽器の演奏も手がけ、レコーディングもほぼ自分でやっているらしい。いろいろなレビューで書かれていることだが歌メロがとても良いし、声も綺麗。フォーク風の曲からフィル・スペクターみのあるストリングスアレンジの曲まで、広いジャンルから影響を受けた感じもあって聴いていて飽きることがない。特に#2「Tarvez」、#6「Pouco a Pouco」、#8「Era o Fim」がFav。「Pouco a Pouco」でちょっとサイモン&ガーファンクルの「Bridge Over Troubled Water」を想起したりした。

 

Antonio Loureiro – Antonio Loureiro

・先ほどの君島大空さんのインタビューでも言及されていたブラジルのアーティストのセルフタイトルアルバム(2006年)。この人の音楽世界も幅広いが、打ち込み感は(少なくとも本作においては)希薄で、基本的にアコースティックな楽器を使っている。最近ブラジルの音楽が好きでちょこちょこ聴いて勉強しているのだが、ラテン音楽のセンスを他のジャンル(ポストロックとか)と融合させてゆくおもしろみはこのアルバムで初めて味わった。これから他のアルバムも聴いて理解を深めていきたいアーティスト。

 

Dez Anos Depois - Nara Leão

・一気にちょっと古いアルバム(1971年)。ブラジルの音楽シリーズ2。いわゆるボサノバのアルバムで、ナラ・レオンのしっとりとした都会的なヴォーカルが心地よい。このアルバムは賑やかにいろんな音が鳴っているわけではない。全編通して、ある程度一貫した要素でまとめられている(ボサノバ特有のズーチャッズチャ、というシンコペーションのリズムやシンプルな楽器構成、など)。にもかかわらずマンネリ感を感じさせないのは、アレンジと歌い手の表現力の妙だろうか。#7「想いあふれて」〜#8「ボニータ」の流れが特に好き。

 

坂本龍一の「12」も聴いたんだけど上手くまとめきれていないので、もうちょっとしっかり聴いてからにします、、、

 

 

●Live

1/11 “Slow Dance butaji×mei ehara” @青山月見ル君想フ

 年末に出たmeiさんの「ゲームオーバー」はライヴでもやはりよかったし、「歌の中で」も初めて聴けた(本当に久しぶりの演奏だったらしい)。butajiさん、バンドセットは今回が初。最新ALからの曲がやはり特に好き。「トーチ」は弾き語りで何度か観ていたが、バンドアレンジを是非ライヴで観たかったので感激でした。ちなみにたまたまだと思うがmeiさんのバンドはmeiさん以外、butajiさんのバンドはbutajiさん以外全員メガネを掛けていて、さらにオーディエンスのメガネ率もなんか高くておもしろかった。おれもメガネだし。

 

1/13 “Filmland自主企画『PROJECTER Vol.2』” @下北沢BASEMENT BAR

 当日の昼にお誘いを受けたので行った。Filmlandは以前から存在を知っていたものの、実際に観たことは未だなく。大人数×ツインボーカルという編成でサウンドをしっかりまとめ切っている技量はすごいなと思った。そしてメロが良い。SHIOSAIという曲が好きだったが、その曲を作ったギターボーカル(の一人)、フジイさんがこのライヴで脱退するとのこと。なんというタイミング。あとこの日、以前から聴いているLAIKA DAY DREAMの2人体制のライヴも観られた。こちらも素晴らしかった。

 

1/15 “ずっと真夜中でいいのに。ROAD GAME『TECHNO POOR』叢雲のつるぎ” @国立代々木競技場第一体育館

 体育館のライヴはそんなに音がいいイメージがなかったんだけど、このライヴはかなりよかった。もちろん音作りとリハをこだわってやってるのだろうけど、ずとまよのバンドは不思議な家電楽器みたいなのやら津軽三味線やら要素が沢山あるので大変そう。アンコールで最新曲「綺羅キラー」を聴けた。顔出ししていないシンガーとVTuberがリアルでライヴやるってなるとどういう風になるんだろう、と興味深かったが、お互いの世界観を上手く汲んだ流石の演出だった。

 

1/20 “Seukol × nishieifuku JAM pre. "Savanna" @西永福JAM

 Seukol初め(昨年も何度もお邪魔させていただきました)。ニューギアの音もよかったし、Anemoneのゆったり・ずっしりアレンジがかなり好みだった。今年の活動もとても楽しみにしている。そしてGrimps Group。圧倒的な熱量を放出しつつも音像がめちゃくちゃになっておらず、むしろ1つの生命体のような形でステージに立っている。年明けからかなりいいものを観てしまったなという感想でした。

 

1/23 “君島大空 合奏形態 ワンマンツアー『映帶』“ @KT ZEPP YOKOHAMA

 新譜のところでちょっと書いてしまったんだけど、改めて本当によかったです。冒頭の弾き語りからバンドメンバーが入っていく演出に引き込まれて、そこからはもうあっという間。中盤の再度の弾き語りパート、「世界はここで回るよ」〜「ぬい」〜「火傷に雨(途中からバンドセット)」の流れは忘れられない。「火傷に雨」のヴォーカルエフェクトを使ったアレンジは何度も聴きたい。アンコールの「19℃」ではもはや整いかけた。ライヴを観る楽しみというものをしかと感じさせてくれるアクト。