先月に続いて仕事の方がやや忙しく、若ほったらかし気味に。
でもなんだかんだ無事できそうです。
1.BOOKS
●ヘッセ/高橋健二訳『郷愁』
中学生か高校生のときに一度読んだ作品。当時はこの作品を読むに足る人生経験もなかっただろうし、再読することで色々発見があるかな、と思って手にとった。
実のところ確かに学生時代とは明らかに作品に対する解像度がまったく違った一方で、印象的な台詞などは10年近く前のことでも意外なほどよく覚えていてびっくりした。
「歌えさえしたらなあ」
●安部公房『カンガルー・ノート』
脛にカイワレ大根が生えてしまい、色々あって病院ベッドに乗って奇妙な冒険をする話。サカナクションの山口一郎さんが多大な影響を受けた作品、らしい。
主人公の男がだんだんとカイワレに愛着をもっていくところとか、生えてきたかいわれを食べながら自足していくところとか、まともな感覚を超越したところで主人公にちょっと肩入れしてしまうような、そんな感覚に陥っていくのが恐ろしい。
どんなメッセージ、どんな意味を持つ小説なんだと訊かれると難しいんだけど、どうしてか引き込まれるものがあり、2日で読み切ってしまった。
●千葉雅也『勉強の哲学』
勉強をして学ぶことを「ノリが悪くなること」とか「来るべきバカになること」とか、面白い表現で説明してくれる本。
勉強をしてノリが悪くなる、というのはそれまで属していた集団やコミュニティの「ノリ」に身を任せることをやめること、らしい。確かに。
●寺尾紗穂『南洋と私』
「南洋群島は親日的」。それは本当だろうか。****、**、***――消えゆく声に耳を澄ませ、戦争の記憶を書き残した類い稀なる記録。
↑この本の帯に書いてある説明文なんだけど、****に入る地域の名前、わかりますか? 僕は正直わからなかった(正解は「サイパン」「沖縄」「八丈島」)。
南洋群島が親日的かどうか以前に、「南洋」がどのあたりを指すのかすら少なくとも僕は覚束なかった。「消えゆく声に〜」とはよく言ったわけである。
日々なんとなく過ごしているうちに見失ってしまうものや、そもそも気づくことすらない歴史の1ページは山ほどあるし、それらを「そういうもん」としてやり過ごすことは簡単だ。
だが、こうして本に出会ったり、新聞記事で読んだりすることでそれらに気づくことができたなら、せめてそれは大切にしたい。
●穂村弘『図書館の外は嵐』
賛否両サイドから雨アラレの如くご意見・ご感想をブチ投げられているであろう週刊●春であるが、この本の元となった穂村弘さんの連載を生み出してくれたことに関してはまったくもって感謝するほかはない。
穂村さんの(ほぼ)あらゆるジャンルを網羅する読書遍歴を肩肘張らずに読める、嬉しい本。『図書館の外は嵐』って、タイトルから素敵すぎ。
2.COMICS
呆気にとられてたら第一部が完結してしまった。いろんな意味でアホのような漫画だったけど、個人的には設定も登場人物も非常に魅力的でとてもよかった。
ジャンププラスの続編が楽しみ。
●町田メロメ『三拍子の娘』既刊1巻
この人の描くイラストが好きでTwitterとかフォローしてたんだけど、1年前ぐらいからマンガも連載し始めて、本になるのを楽しみに待っていた。
もうすぐ紙もでるらしい。電子で先読みしたのに普通にそっちも買っちゃいそう。あと町田さん、声もめっちゃいい。
(音源の宅録感たまらんな……都内某所のワンルームでちょっとだけ窓開けてパソコンに向かってギター弾いてる誰かを勝手に想像してしまう……)
●染谷みのる『刷ったもんだ!』既刊3巻
いわゆるお仕事漫画の範疇に入るんですかね、これは。印刷会社が舞台。
お仕事漫画ってシリアスになりがちだよなーって(勝手に)思っているんだけど、これはもうゴリゴリにコメディ。それでいて印刷業に関する記述はおそらくかなり精確で、業界に関するいい教科書にもなると思ったり。
絵も可愛くて読みやすいしかなり好きです。
3.MUSIC
とりあえず今月はこれでしょうか。ミツメは昨年のコロナ禍の時期からぽろぽろとシングルを出していて、アルバムもずーっと楽しみにしていたんだけど大正解だった。
Gt.大竹さんが何かのインタビューで、アルバム「VI」を作るうえで改めてギターという楽器にきちんと向き合った、というようなことを言っていたけれど、その通り、バンドという形態で演奏することにこだわった、何か矜恃のようなものを感じる。
#3「変身」は、自分の周囲でも異常にウケがよかった曲な気がします。いや本当にどの曲も好きだけど。
豪華すぎるデュエット。この曲のベースも素晴らしい。僕もベースを弾くんですが、いちばん(弾くのが)苦手なタイプのベースだ。それだけに感じる魅力もデカい。
あと、曲に関係ない話でアレだがジャケットめっちゃよくないですか? 原色系の透明な液体って実はあんまり見る機会ないからおおーって思っちゃう。
勘の良い方はお気づきかと思いますが、ハイ、『南洋と私』の著者の寺尾さんと同一人物です。多才かよ。
ご自身の作詞・作曲は、普段から言葉というものに愛情を注いでいることがジンジン伝わる非常に心打たれるものばかり。なんだけど、本作の1曲目『停電哀歌』のように既存の詞に新しく歌を乗せる試みもしていて、これがまた素晴らしい。
こういう「ダッチー、ダダチー」みたいなドラムの音好きなんですよね(伝われ)
伸びやかなボーカルも魅力的、こんな風に歌えたらな……と素直に思う。
絶対に変拍子だと思ったら普通のエイトビートだったときの衝撃。スネアの位置をスタンダードなエイトからずらすことで「3拍子+5拍子」っぽく聴かせているな。ぐぬぬ。
あとはマジでずっとずとマヨの『ぐされ』聴いてた。強すぎるアレ。ほんまに。
4.FILMS etc.
●あのこは貴族
原作小説も読みましたが、併せて名作だと思いました。素晴らし。
映画ではどうだったか曖昧だけど、小説では東京育ちとそうでない人との間にあるものを「格差」というかなり強い表現で記述している。
(のでこういう書き方をするが)格差という社会的な課題を主題に置きつつも、一方で映画という「エンタメ」であることに飽くまで自覚的というか、見る人を置き去りにすることなくストーリーを展開していた。
ここの両立ってめっちゃ繊細なバランス感覚がないとできないんじゃないか? と思ってる。
●羅生門
作品の大筋は芥川龍之介の『藪の中』に沿っていると思うんだけど、タイトルは『羅生門』なんだよね。
黒澤明の作品を意識的に観たことがあまりなかったので、今後経験値を積んでいきたいところ。
☆最近覚えたこと☆
・「にべもない」の「にべ」はベタベタした魚
・瓶の中でキノコを育てる「きのこリウム」なるものがある
3月おしまい。