※この物語は事実をもとにしたギリギリフィクションです。
過日の深夜0時ごろ、環七通りをチンタラと自転車で走っていたら、警察官に声をかけられた。
深夜0時ごろに環七通りを自転車で駆けるという状況には、駆け人(かけびと)それぞれに理由があろうが、僕の場合なんのことはない。
その日は仕事が早めに片付いたのでふと思い立ち、自宅のある江古田から南下して高円寺・小杉湯まで風呂を浴びに行ったのだ。その帰りである。
ともかくも僕は警察官に呼び止められたのであった。
警察官(以下、「ポ」):「さーせんッス、ちょぉっといいスかぁ」
私:「(減速しながら)え、あぁッハ、はいどうぞ」
私とさほど歳の変わらなそうな警官はしかし、ギリ敬語を使っていた。
というのは、職質や交通整理での警官は、「声をかけた相手がドの付くヤンキーであろうとナメられぬように」敬語を使わないと聞いたことがあるのだ。これがタメ語であったら速攻、
「さっきチャリ乗ってたら警官に呼び止められたんやけど、初手タメ語って本当なんだな……」
とツイートするところであるが、とりあえずその必要はないようなので、一旦話を聞いてみることにした。
ポ:「お急ぎのところサーセンス。最近この地域での防犯警戒のほう強化してまして、すんませんス、自転車の防犯登録票、拝見してよろしいスかね?」
私:「えっ、あっハハイ、後ろに確か貼ってると思います…」
ポ:「ん? 『確か貼ってると思います』? 何でちょっと不確かな感じなんスか?」
私:「えっ、それはその、普段特に気にしない部分ですし…」
ポ:「いやいや、これは怪しい……確信がもてないってことは、これもしかして盗難車なんじゃないスか? ということでハイ、署まで同行願います」
…察しの良い方はお気づきかと思うが、現在私は獄中でこの手記を認めている
ということはなく、普通に防犯登録票をチェックされたところまでが事実であり、以降は私の心に棲む悪意マシマシの想像力が創り出したフィクションである。
別にナリが怪しいとかそういう理由ではなく、ランダムで数台に1台、こうしてチェックしているのだという。
ポ:「番号は*****、ちなみに失礼スけどお名前は?」
私:「あ、大橋と言います(んなことまで聞かれるのか…)」
ポ:「あざすッス、(無線で仲間の警官に)*****、大橋さんです……目黒? 目黒区の防犯登録なんですね。この自転車ってどこで買われました?」
私:「えー、中目黒ですが……」
ポ:「中目黒で買ってこの辺で乗られてるんスね。持ってくるの結構大変じゃなかったスか?」
…別に良いではないか。普通に中目黒の良い感じの自転車屋さんで買って、購入当日は山手通りを爆走しつつ遥々と乗り運んできたのだ。その旨を警官に伝えると、
ポ:「えっ!? あなたのようなガリヒョロクソメガネが目黒から自転車に乗って!?!? ありえないスね、これは怪しい……これもしかして目黒からシンプルにトラックで運んできた盗難車なんじゃないスか? ということでハイ、署まで同行願います」
…察しの良い方はお気づきかと思うが、現在私は獄中でこの手記を認めている
ということはなく、普通に購入場所を(一応)訊かれたところまでが事実であり、以降は私の心に棲む悪意マシマシの想像力が創り出したフィクションである。
これもあまりに遠い管轄エリアでの登録の場合、何か調べたりするのだろう。
防犯登録のチェックが終わった。ポリスメンは「さあ、用は済んだ」とばかりに(実際に用は済んでいるのである)私に向き直り、
ポ:「あざしたッス、OKッス。お忙しいところ失礼しましたッス」
私:「あの、僕何にも知らなくてアレなんすけど、最近この辺でも盗難とかって多いんすかね?」
救いようのない阿呆である。用は済んだから行っていいと言われているのに、なぜ話を広げるようなマネをするのか。しかしこれはこういった場面に限らず、私の悪いクセであった。
特に今回は、夜道を警察に止められて「何事か」とビビりまくった挙句、ものの数分で何事もなかったかのようにことが済んでいくことに何か納得のいかないものを感じたのだ(納得しろよ。というか納得する・しないの話ではないだろ)。思えばこれが運の尽きであったのかもしれない。
果たして、ポリスメンは一瞬驚いたような顔をして、すぐに平素の表情に戻ると続けた。
ポ:「そッスね。実際多いスねー。鍵とかって普段かけられてると思いまスけど、それでももってかれることありますし。保管とかってどうされてます?」
私:「あー、アパートなんで普通に部屋のドアの前に……」
ポ:「なるほどッス、若干それ危ないかもッスね。最近は一軒家とかでも駐輪場に入り込んで丸ごとパクってく輩もいるッスから、少なくとも二重で施錠はしてもらえると……ちなみになんスけどお住まいは?」
私:「あ、えと、江古田です」
ポ:「江古田スか……あの、ここ高円寺寄りの中野スけど、こんな時間まで何してたんスか?」
私:「えっ、そっ、それは……高円寺にいい銭湯があるのでちょっとそこまで……」
ポ:「いや、でも江古田にも銭湯ぐらいあるッスよね。それを湯冷めのリスクまで冒して……チャリで20〜30分あるスよね? それに見たところ、風呂浴びてきたとは思えないぐらい薄汚いッスし……うん、これは怪しい……ということでハイ、署まで同行願います」
…察しの良い方はお気づきかと思うが、現在私は獄中でこの手記を認めている
ということはなく、普通に住まいを(一応)訊かれたところまでが事実であり、以降は私の心に棲む悪意マシマシの想像力が創り出したフィクションである。
人の良さそうなポリスメンは、実際には江古田周辺でも盗難は増えているので気をつけてほしいといったことを付け加えてくれた。
さて、ポリスメンのお仕事の邪魔になっても仕方ない。サクッと話を切り上げ、挨拶もそこそこに改めて帰路に就いた。一応、ポリスメンに出会う前よりも少し速度を落とし、環七通りを北上していく。
唐突な防犯チェックと、話に聞いたよりはずっと懇切丁寧なポリスメンの対応に、どこか拍子抜けしたような気持ちを胸に抱えつつ。