読んだ・聴いた・観た(2月)

2月分、なんとか無事できそうです。

今月は映画も観たのでその感想も少し。

 

 

 

1.BOOKS

坂口安吾『白痴』

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 「私は悪人です、と言うのは、私は善人ですと言うことよりもずるい。私もそう思う。でも、何とでも言うがいいや。私は、私自身の考えることも一向に信用してはいないのだから(p.152「私は海を抱きしめていたい」)」

 大学時代に読んだ小説の再読。坂口安吾はどうしてか初めて読んだときから好き。その言葉の1つひとつがどこか投げやりなようでいて、一方で生きるということを極限まで集中して見直すことでしか得られないようにも思える。彼は人間という存在に類稀な関心を示し、非常に愛してもいたんだろうと思う。

 

 

●デイヴィッド・E・フィッシュマン著/羽田詩津子訳『ナチスから図書館を守った人たち』

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 この本の舞台となるリトアニアは、第2次大戦中はナチス・ドイツ、戦後はソ連の脅威に晒され続けてきた歴史をもつ。そのようななかで、占領者から貴重書を守り続けた人たちの記録の本。

 64ページの記載には、ナチスの占領下にあってその日寝る場所も定まらないような人たちが、図書館が開館するや「喉の渇いた子羊のように本に飛びついた」とある。

 以前読んだ『復興の書店』(小学館文庫)という本にも、東日本大震災の直後、足の踏み場もないような被災地で、書店が営業を再開した瞬間に人が集まったという話があった。

 極限の状態にある人たちが活字に触れることを求めるのは、ひとつの普遍的なことなんでしょうか。

 

 

和田誠『装丁物語』

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  一昨年に亡くなった和田誠さんの装丁論。彼の装丁した本には僕の好きなものも沢山あるので、彼がどんな本に対し、どんな意図でフォントや絵を作ったのかワクワクしながら読み進めた。

 和田さんは、装丁を頼まれた本は通しでしっかり読むのだそう(そこまでやらないデザイナーも多いらしい)。そうしないと、その本にもっとも合った絵やデザインは生まれない、という思想ですね。

 彼自身は作家ではないけれども、文学や書物に対するひたむきな敬愛が感じられるエピソードだった。執筆や評論とはまた別に、こういう形の文学の愛し方があるんだな、という感じ。

 

岸本佐知子『なんらかの事情』

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 英米文学翻訳家のエッセイ。
 この人が訳した、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』を前に読んだ。これがなかなかトンでる小説なんだけど、岸本さんご自身も壊れた傘を通りがかりの花屋さんに「捨てといてください」と渡してしまったり、雪玉で銀行強盗を敢行した男に「どうか捕まらないでいてほしい」と思いを馳せたりと、モラルのネジがトンでいるところがある。

 そのせいか読んでいて結構ヒヤヒヤする本なんだけど、そのヒヤヒヤが楽しくもある。

 

宇野重規保守主義とは何か

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 政治経済については勉強し直そうと前々から思っていて、思っているだけだったので、最近やっと少しずつ本を借りて読んだりしている。

 今、一口に「保守」と言っても色々な意味合いをもつと思うけれど、この本はヨーロッパにおける「保守」の起源から順に歴史を追い、現代の「保守」ができるまでをわかりやすく教えてくれた。

  

2.COMICS

ヤマシタトモコ『違国日記』既刊7巻

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「誰のために何をしたって人の心も行動も決して動かせるものではないと思っておくといい」

「ほとんどの行動は実を結ばない まして感謝も見返りもない」

「ま でも そうわかっていてなおすることが尊いんだとも思うよ」

 ここまで読んでピンと来たら読んでくださいとりあえず。

 気が早いけど、今んとこ2021年でいちばん食らってる漫画。特に5巻は寝る前に読んだら、読んだ後3時間ぐらい寝られなくなった。

 

●山口つばさ『ブルーピリオド』既刊9巻

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 地味に追っている。藝大が出てくる漫画最近多いね? 最近でもないか。

 

いしいひさいち『バイトくんブックス1 四畳半の男』

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 いしいひさいちマジで好きなんですけど、多くの作品が化石化していて全然見つからない。この作品に関してはおそらく出版社がとっくの昔になくなっている。

 これは日藝の前にある古本屋に文字通り埋もれていた。就活中に読まない方が良いですね。

 

3.MUSIC

オー・ヨーコ!

オー・ヨーコ!

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 六本木でやっていた展示"DOUBLE FANTASY -John & Yoko"を観て3日間ぐらいその耳になっていた。
 今更有無を言わさぬ名盤ですけど、Jealous GuyとOh Yoko!の2曲は特に好き。My love will turn you on!

 

 

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 リズムセクションが電子音から徐々にアコースティックに変わっていくのが良い。Liveでドデカサウンドで聴きたいな。

 

 

Pà Pá Pà

Pà Pá Pà

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 フェラ・クティの息子だったんですね。知らなかった(さらにシェウン・クティという腹違いの弟もいる。彼もアフロビート、ファンクのミュージシャン)。アフロビートも今まであまり馴染みのなかったジャンルなので聴いていきたい。ソウルフルでカッコいい。

アルバム名からもわかる通り、込められたメッセージは強烈かつ明確。

 

 

Guard Down

Guard Down

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 アメリカの21歳のアーティストで、これが1枚目のアルバムらしい。すご。Clairoとバンドやってたりもする人みたいです(ClaudとClairoでややこしいな)

Wikipediaによると「ベッドルーム・ポップ」というジャンルになるんだそう。確かにドリーミーな音像が特徴的。ジャケットも夢の中っぽい。

 所属しているSaddest Factoryというレーベルがそもそもまだ新しいレーベルらしいのだけど、Webサイトがパソコンの画面みたいで面白かったです。見方がよくわからなかったが……(https://saddestfactoryrecords.com/ )

 

海が泣いている

海が泣いている

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 松本隆の対談集を読んで聞き直している。表題曲が名曲すぎるんだな。

 

 

サボテンガール

サボテンガール

  • アイナ・ジ・エンド
  • J-Pop
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 AL全曲作詞作曲してるんすよね……才能……てか声良すぎませんかね……

 

 

Bridge

Bridge

  • YonYon
  • ネオ・ソウル
  • ¥255
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 曲もすごく好きだし、あとはジャケが好きなんです。
 この曲もメッセージ性とても強い。綺麗なメロに乗せてるのがまた。

 

Bon Dance

Bon Dance

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 昨年の緊急事態宣言中にFly with MeがJ-WAVEかなんかでヘビロテされてたのをよく覚えててずっと楽しみにしていた。
 音が分厚い、各プレイヤーのテクが高い。

 

 

はゔぁ

はゔぁ

  • ずっと真夜中でいいのに。
  • ロック
  • ¥255
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 もう丸サ進行系アーティストとか言えなくなっちゃった。今のところ「はゔぁ」が1番好き。

 シャープ4つのキーからフラット4つのキーへの転調ってこんなに違和感なくできるもんなんですね。

 

 

フィクション

フィクション

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 ふわっと浮くようなギターと堅実なリズムの取り合わせはもはや安心の域。かつ新曲を出すたびに新たなカラーが見える。
 今はとりあえずアルバムが楽しみ。

 

フィルム

フィルム

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 「創造」の感想を書けよという感じですが、新譜出たついでに昔のアルバムを聴きなおしていて色々思い出し、しんみりしてしまった。高校のときずっと聴いてたな。
 この『フィルム』という曲がとても気に入っていた。ゆるゆるとゾンビに追い回されるMVが良いんですよ。

 

4.FILMS etc.

●花束みたいな恋をした

hana-koi.jp

 

 思うところ100個ぐらいある。笑

 とりあえず「穂村弘はだいたい読んでます」で「ぐあ」ってなり、カラオケできのこ帝国『クロノスタシス』を歌うシーンで「ぬぬん」ってなり、『A子さんの恋人』が一瞬映るシーンで「ギョアーーーー」ってなった。舞台が西武線沿線でなくて本当に良かった。

 個人的には、絹さんに圧迫面接をした面接官に対して麦くんが「その人はきっと今村夏子の『ピクニック』を読んでもなんとも思わない人だよ」(だっけ)と言い放つシーンに、サブカルボーイズアンドガールズの悲しい傲慢さが凝縮されている感じがして、メチャクチャ印象に残った。

 自分が共感して、愛を注ぐ対象だったはずの作品が、このシーンでは(こう言ってよければ)敵なる他者との差異を表すための記号に成り下がってしまっているんだよね。そして、分かり合えないと断じた相手に「お前に〇〇の良さなどわからない」と突き放す思想は、彼自身のことも救ってはくれないはず。

 っつってね。

 

●心の傷を癒すということ

gaga.ne.jp

 

 ちょっと駆け足感はあったけれど、大切なところは丁寧に描いていて良い映画でした。

 しかし、「精神科は人の役に立たない」とか、「人の心など、身体を治すことに比べればどうでもよい」とか言われていた時期があったんですね。5,6年前に話題になった「文学部不要論」がふと頭をよぎった。不要じゃないと信じたいし、信じている。

 

●Swallow

eiga.com

 

 結婚を機に、日々ストレスを抱えるようになってしまった女性が「異食」に強く惹かれるようになっていく話。
 話の序盤こそ「食べ物でないものを食べること」に対する躊躇がしっかりめに描写される。んだけど、その辺がどんどんカジュアルになっていって、ごくライトなノリで本のページなんかをベリベリむしって食べるようになっちゃう。気づけばこちらも、そんな光景をむしろコミカルなものとして受け入れてしまっている。非常に巧妙。

 

☆最近覚えたこと☆

・duodenum:英語で十二指腸

・「コレラ」は夏の季語

 

2月おしまい。