勘違い、または空目

「完壁」だと思っていた。否、「完璧」だった。

 

漢字の話である。「完璧」、英語でperfectの2文字目は「璧」であって、下の部分が「玉」であることに気づいたのはごく最近のことである。

「壁」の意味するところは言うまでもなく家の四方を覆っているアレだ。英語で言えばwall。かたや「璧」の意味するところは古代中国で祭祀のために使われた宝物。転じて「たまのようにりっぱなもの」を指すようになったようだ。

この日本に生を享けて24年と少しの間、なんの違和感もなく僕は「完壁」と書き記していた。

わりとショックである。それなりに文章というものを愛し、いちおう文学部を卒業して曲がりなりにも編集の仕事に就いている、そんな自分の、ショボくも確かにそこにあったプライドに、ビリビリと嫌な割れ目が走る。

きっと高校時代の手書きのレポートにもバイトの履歴書にも、ちょっと行きたかったあの企業のESにも私は暢気に「完壁」と書いていたに違いない(バイトの履歴書に「完璧」という単語を入れる確率についてはこの場合触れずにおく)。

 

こんな私のようななんちゃって能天気にほんごであそぼ野郎に気を遣ってか、Macbookの予測変換では「かんぺき」に対して「完璧」と「完壁」の2種類の予測を用意してくれている。実際のところ、誤用が広まって元の意味や表記と同じように---もしくは元の意味や表記を超えて---使用されている言葉は例を挙げるまでもなく多数ある。この「完壁」も多くのにほんごであそぼ野郎の誤記を経て常用されるようになっていくのだろう。

 

......でもそういうことじゃないのだ。

こういうとき、日本語に対して僕のマインドはどうも保守的だ。

 

話は変わって。

穂村弘さんの『はじめての短歌』(河出書房新社、2016)を読んでいたらこんな短歌があった。まずは引用するよ。

少年の君が作りし鳥籠のほこりまみれを蔵より出だす

佐藤恵

 

穂村弘:はじめての短歌.河出書房新社,東京,48.

(短歌の解釈やらなんやらは本題でないので置いておくよ。知りたい人はこの本買って読んでね。)

 

僕は上の短歌をサラッと読み、「少年の君が作りしウーロンってなんだよ」って思ったのであった。

???

トリカゴ、だ。

www.kawade.co.jp

 

......ぱっと見「烏龍」に見えるじゃん。空目したんだよ。

「鳥籠」と「烏龍」を見間違えたうえに名作にケチをつけるとは救いようがない。僕が直前まで漫画『九龍ジェネリックロマンス』を読んでいて脳が中華モードに入っていたというのは言い訳にならないであろう。

www.s-manga.net

最近、限られた時間で早くものを読んだり見たりしようとする癖がついている。するとうえのような「ウーロン事件」のようなケースが多発するわけだが、これは非常に良くない。

時間が有限だからこそ、たまにはじっくり作品と向き合い、しっかり出汁をとり(変な例えだ)、、と、そういう読み方ができるようにならなくては。そう思う。

 

ところで「烏」(からす)という字は「鳥」という字から「一」を一本抜いたかたちになっている。理由は「からすは全身が黒いから目がどこにあるかわからない」からなんだと。だから鳥という字の一本線を目に見立てて隠したんだと。なんだそれ。